凍てつく山と竜の家


 修行の日々が始まった。
 家のちょうど中層あたりにあるだだっ広い部屋は、いつでも床がぴかぴかに磨かれている。サイキが来てからはこれも修行だとサイキに磨かせているが、ゼンショウはその出来にどうも納得がいかなかった。
「次のポケモンは」
「ほ、ほぇ」
 サイキもポケモンを鍛えてきたつもりだったが、三日経っても、サイキのポケモンたちはオスのカイリュー一匹に勝てなかった。
「つ、強すぎだろ! 聞いてねーよこんなの」
「負けても経験になる」
「トラウマが増えるだけだ」
 ここにはポケモンセンターなんてものはないし、回復マシンもない。ただ大量の木の実はあったので、そこからどれが効くか選んでポケモンに与えなければならなかった。いつでもセンター頼みだったサイキには少し面倒にも思えた。
 だが、傷ついたポケモンたちがおいしそうに食べ、傷を癒していくのを見ると、それも耐えられるものだった。
「合格」
「やっとか……」
 ある日、サイキが雑巾がけしたチリ一つない床を見て、ゼンショウはようやく納得した。
「これで足腰も鍛えられたのではないか」
「まず身体の節々が痛すぎてそういう実感が」
「鍛えられているということだ……ん」
 いつもは、朝になれば“司の部屋”に迎えに行くカイリュー二匹が、今日は自ら大部屋に下りてきた。
 ゼンショウもサイキも、カイリューたちを見る。メスのカイリューの腕には、タマゴが抱きかかえられていた。
「子供か!」
 ゼンショウが言うと、メスのカイリューがオスのカイリューをちらと見上げる。オスのカイリューは照れたように笑った。
「おめでとう、な」
「ドンッ!」
「……そうだ。このタマゴ、お前が孵してみんか」
「……は?」
 突然そう振られ、サイキは目を真ん丸くした。
「そうだな、次の修行は、タマゴを孵すこと。元気なポケモンと一緒にいれば孵りやすいからな、そうしよう」
「はーっ?」
 カイリューは嬉々とサイキにタマゴを渡す。見かけよりも重いそのタマゴは、ゴロン、とサイキの細い腕に落ちた。
「マジかよー……」  

 120915