曇りなき者と一本道


・VIから100年ぐらい前のお話、キングダム地方(飯塚さん)お借り
・モンスターボールはまだあらず、黒いバラも噂……ということでお願いします

 こんな時に吹きすさぶ風に温度など感じないものだ。
 相棒のドレディアとブリフォスブリッジを歩きながら、僕スタートゥス・ドレイデンは、家を出た経緯を思い返していた――今はこの名前すら名乗る資格がないのかもしれない。
 僕は幸いなことに、両親がともに健在で、可愛がれ、教育も受けられるという、なに不自由ない生活ができる家に生まれた。
 だけど、彼らの意識の中に、僕が描きたい未来は見当たらなかった。

「医者になりたいだと!? なにを考えている」
「私たちが一体なんのために……なんのために、あなたをここまで育てたと?」
「医学だって学問だ。教養ある者にこそふさわしい!」
 僕は一歩も引く気はなかった。
 医者が軽視されているということは、当然僕もわかっていた。曖昧な治療を続ける医者もいるし、貧しい人々は死ぬ間際まで医者に診てもらわない。これで人を救えるわけもなく、第一儲かる仕事ではないのだ。
 大体そういう、わかったことを両親に怒鳴られた後、僕はまた続けた。
「でも、医者は将来絶対必要になる。ここ十数年の科学や解剖学の進歩は医学にも大きな影響を与えた」
「わずかなものだろう! 危険で不潔な仕事だ、うちの息子にやらせてたまるか」
「人の命を救うことのどこが不潔なんだ!」
 僕らしくもなく、頭に血が上る。らしくないのは父も同じだった。
「……どうしても医者になるというのなら」
 僕は嫌な予感がした。
「勘当する」

 ほとぼりが冷めたらとか、そういう問題ではない。父は本気だ。
 僕は全てを失った。ただ、縁もゆかりもない人々を救うために、医者になる希望だけは新たに与えられた。
「ドレディア、君がついてきたのは、ほぼどさくさにまぎれてだけど、僕でよかったのか」
 ドレディアは恭しくうなずいた。

 バーミンシティ。
 その先に見えるのは、まばゆいばかりの光をたたえた、自由だった。