オレさまがカミーリア大魔術団に入ったいきさつ


 今日こそは殴りこんでやるんだ……
 暗いテントを彩るショーを見ながら、オレさまテンマはつばを飲み込んだ。
 ――カミーリア大魔術団。知名度も実力もうなぎのぼりのサーカス団だ。
 カミーリアさんという、ミント色の帽子がトレードマークの女の人を団長として、いろんな地方をとびまわっている。
 マジシャンを志す人たちの、いわば憧れの的だ。
 ……そして!
 チョウジタウンやエンジュシティの小さな劇場で和妻ショーをしているオレさまにとっての、最大の目標!
 それがカミーリア大魔術団への入団なのだ。

 ショーが終わり、あたりが明るくなる。
 外に出る客に混じって、オレさまは楽屋へ急いだ。

「たーのもー!」
 オレさまは楽屋らしき部屋の扉を、思いっきりひらいた。
 ……女子部屋! やったね。
 その時には、カミーリアさんと、それから、炎タイプのポケモンとのショーを得意とする、もみあげがトレードマークの女の人が、化粧を落としていた。
「オレさまはテンマだ! カミーリア大魔術団にー、入団させろー! さもないと、団長を嫁にもらっていくぞー!」
 あたりに沈黙が走った。もしかしてオレさま、今ものすごく痛い子?
「団長ぉ……この子、誰?」
「そりゃぁここまで来てくれたんだから、今日のお客さんでしょ! ぼうや、見てくれてありがとう!」
 カミーリアさんが、オレさまに、オレさまだけに、笑いかけてくれてる!
 オレさまは今、きっとすごく目が輝いてるに違いない。
「カミーリア大魔術団、だーいすきです! コガネかアサギでやる時は、絶対行ってるんですよ!」
「へぇ、嬉しいなー。あ、そうそう、入団のことだけど、ぼうや……テンマ君だっけ? セージ呼んでくるから、軽く自己紹介してくれない?」
「わかりましたー!」
 カミーリアさんは、そのセージさんという人をすぐに連れてきた。
 あぁ、この人か。クロバットとアクロバットなパフォーマンスをする眼鏡のお兄さん。
「団長から話は聞きましたよ。他にもメンバーがいるんですが、とりあえず僕たちに、君の事を教えてくれませんか?」
 オレさまはすぐさま、“秘密道具”を取り出した。そして、軽く頭を下げて続けた。
「チョウジタウンの和傘職人のもとに生まれた、テンマと申します。チョウジやエンジュで和妻ショーを続け……今の実力は、はい、このとおり!」
 オレさまは、一つの和傘をここにいる人数分にして、カミーリアさんから渡していった。
「へぇ、やるじゃない! うち、まだ和妻できる子いなかったし」
「本当ですか!」
 オレさま、カミーリアさんに実力認められたの? いや、はじめてだからかもしれないな。ここの修行きついって、ネットで見たし……。
「うん」
「では、入団ついでにオ……僕と婚約を……」
「入団か婚約か、じゃなかったっけ?」
 もみあげの女の人が言った。うっ……鋭いな……

「ステージの片付け終わりましたぁ!」
 髪を右のほうでまとめた女の子が入ってきた。
「ああ、ボタン、お疲れ様。よかったね! 後輩が出来たよ」
「えっ?」
 見覚えがあるようなないような、オレさまと同い年くらいのその子がオレさまを見た。
「ああ、オレさまはテンマってんだ! よろしくー!」
「わたしはボタン……」
 同世代の子がいるなんて、なんだか心強いなぁ。
 オレさまは思わず手を差し伸べて、ボタンと握手した。
「そういえば、私たちの紹介がまだだったね! 改めまして、団長のカミーリア!」
「あたしはマツリ! 元気なやつが入ってきたもんだ」
「僕はセージです。さっきのマジック、なかなかお見事でしたよ」
 オレさまは、順番に握手を交わした。

 ……だが! カミーリア大魔術団の修行は、予想以上に厳しいものだった!
 それについては、また今度。


 鳴海ゆいさん宅、カミーリアさん、マツリさん、セージさん、ボタンちゃんお借りしました。