ずっと、好きだよ!


 二人の出番は、まずボタンからだった。
 ボタンのイリュージョンも、はじめと比べると随分洗練されたものになっていた。
 アゲハントにつかまり、またフシデはバタフリーにつかまり、空の散歩を演出。サーカスらしくもあった。
 だが、散歩をしていると、急にアゲハントが消えてしまう。ボタンは慌てるが、落ちることがないとわかると、また元気に飛び始める。
 舞台上に降り立つと、アゲハントの行方を心配してか、ボタンは辺りをきょろきょろ見回す。すると、ミツハニーがそれに気づき、舞台端からアゲハントを呼び、二人は抱き合った。
 高度なイリュージョンを入れつつ、少女とポケモンとの交流を演じる、温かみのあるパフォーマンスに、観客は充分に癒された。

 次はテンマの番だ。もう一人の若手団員に、観客の注目が集まった。

  一度後ろを向き、片足だけでくるりと前へ。
 それと同時に、桜の木の枝を出す。ユキワラシの粉雪のタイミングは完璧だ。
 その花を愛でるようにして、そっと棒を取り出し、勢いよく開く。
 白い和傘が、ステージに咲いた。

 ここまで来れば、テンマがメインのパフォーマンスもいよいよ大詰め。
 カミーリアから刀を受け取り、ゆったりと振る。刀を使い始めたのは入団後で、これを使いこなすために鬼のような筋トレをしたことをふと思い出した。
 感傷に浸る暇はない。音楽はずっと流れてゆくのだ。
 あとは、一番大きな傘を取り出すだけ。そこにユキワラシが飛び乗って一回転、それでフィニッシュだ。
 刀を鞘におさめ、右手と左足を伸ばして半回転。
 一番大きな、青緑色の傘がテンマの身をすっぽり包んだ。
 そのまま前を向いた時、ユキワラシがそこに飛び乗る。速い回転を小さくはねてよけ、テンマは慎ましくポーズをとった。
 傘をおろし、一礼。絶え間ない拍手が沸きあがった。

 青緑色。
 青は、自分自身の色。緑は、自分と一緒に色々なことをしてくれたボタンの色。
 そして青緑色は、敬愛する団長のイメージカラーだ。
 自分のパフォーマンスを終えて傘を閉じる。和傘は、閉じる時に雨水や雪が飛び散らないように中に入る。造りそのものが、周りの人を気遣うものだと、父が教えてくれた。

「だーいせーいこう! 皆よくやったよー」
 公演終了後、カミーリアは四人に思いきり抱きついた。
「私も席で見たかったくらい……ふえっ」
「団長、ひょっとして、涙」
「な、泣いてなんか……います! 本当に、よかった!」

 団員とスタッフで、片づけが始まった。
「んじゃボタンとテンマは、あっちね」
「え、オレら二人がですか? マツリさんかセージさんとで縦割りにしたほうが」
「いいから!」
 マツリは、二人の背中を押して持ち場につかせた。そのやりとりを黙って見ていたセージが、二人が行ってしまってから吹き出した。
「な、何よ」
「いや、何となく。マツリも変わりましたよね」
「私も? ……まあ、あいつらはもう大切なメンバーだしね」

 一通りの仕事を終えて、テンマはボタンを呼んだ。せっかくマツリがくれたチャンスだ、今言わなくていつ言うんだ。
「ボタン、好きだ」
 視線を逸らさず、言葉でボタンの瞳を貫く。
「えっ」
「……オレじゃ、ダメか?」
 ボタンは、愛しい人をそっと抱きしめた。テンマはふっと力が抜けた心地がした。
「テンマが、いい」
 そう言われたテンマは、ボタンを思いっきり抱きしめ返した。少しの痛みも、心地よかった。
「ずっと一緒な」
「ずっとね」


 後日、ファンレターの中に、見慣れた名前を見て、テンマは驚いた。
「ん、テンマ、どうしたの?」
「これ、お母さんから……!」
「え、ほんとに? なんてなんて?」
 カミーリアとボタンが顔を覗かせた。テンマはそのまま読む。
「次の公演場所がライモンと、出張先に近いので、是非見にいきたいです……」
「えっ、やったじゃん! テンマ、おばちゃんに会いたいって言ってたもんね」
「うん……」

「ふーん、それじゃ、まだまだ練習ね! ラブラブすんのもいいけど、練習の時はほどほどにねー」
 同じくファンレターを読んでいたマツリの発言に、大魔術団の新スター二人は顔を真っ赤にした。


 大魔術団の若手二人のお話、これにて完結。
 ボタンちゃんは鳴海ゆいさん作のオリトレ。CPのお誘いとても嬉しかったです。本当にありがとうございます!

 111219