大体こういう日々でして


 テンマとボタンの秘密特訓は、なかなか長続きしていた。
 一緒に練習も大事だが、個人練習もまた大事だ。ボタンはその日、ひっそりと練習していた技をテンマに披露した。
「なるほどー。アゲハントとバタフリーのりんぷんを利用して、消えるように見せるイリュージョンか」
「うん。どう?」
「形はできてると思う! でも、実際舞台でやる時はスポットライトの当たり方で、タネがわかっちゃうかもな」
「そうねぇ。いろんな当て方でやってくしかないか」
 ボタンは、アゲハントを撫でた。アゲハントともしっかり練習しなければならない。
「ポケモン、かあ」
「そういえばテンマ、ポケモン持ってないよね」
「うん。家には、オニゴーリとユキメノコがいるけど、オレのってかオヤジのポケモンだし」
「そっか。可愛いよ、ポケモン」
 続いてバタフリーを撫でる。図鑑で見れば表情がわかりにくそうなポケモンだが、ボタンと一緒にいる時のバタフリーはとても嬉しそうだ。

 昼間のスタジオでの合同練習も、若手二人の役目といえば、簡素な大道具やライト、それも本番が近づいた時だけだ。
 いつも、両方とも二人一緒にするのだが、今日はわけが違った。
「今日はスポットライト、わたしだけでやらせてくれない?」
「え、……あ、そっか! じゃあオレは大道具に専念するから、よろしくな」
 テンマにそう言われ、ボタンは早速、フットライトを操作する。
 そして、舞台の反対側でこっそり待機させたアゲハントとバタフリーに、自分のイリュージョンを真似してもらうのだ。
 アゲハントのりんぷんで、消えるバタフリー。フットライトは赤、青、白の三色。スイッチを入れたり切ったりしながら、バタフリーの様子を観察した。
「次にスポット」
 続いてボタンは、スポットライトを使うため階段をかけあがる。そこでカミーリアにつかまった。
「何してるのかな?」
「だっ、団長……」
「もうすぐマツリのパートなんだから、しっかり準備しときなさいね。あれはフットライトの調整? ずいぶん色々触ってたみたいだけど……」
「あの、えっと」
「正直に話しなさい」
 どうもこの人には嘘がつけそうにない。ボタンは、自分がしたことを正直に言った。
「なるほどね。光の当たり方を知ること、それはとっても大事だわ。でもね、今は合同練習の時間。今するべきことじゃないっていうのはわかるわね?」
「はい」
「よし」
 カミーリアは階段の端によけ、ボタンを通す。ボタンがすれ違った時、カミーリアは一つ付け加えた。
「鍵開けとくから、夜使ってもいいわよ」
 そう言って彼女はウインクする。
「……?」

 合同練習も終わって、テンマは簡素な大道具を片付けた。
 やっと終了、という時に、セージにモップを渡された。
「うっ、今日もオレが掃除ですか」
「そうです。最近やっとサマになってきたじゃないですか」
「上達したいのは、道具運びや掃除より、マジックやサーカスなんですけどねぇ……」
 テンマは、わざとらしくセージを睨んだ。そして、にやりと笑う。
「セージさんも、入団したての時は、こうして先輩にこき使われたりしたんですか?」
「……」
「当たりですね。変な伝統もあるもんですね」
「そんなもんなんですよ」
 セージは固い表情を崩さず言った。
「へえ、そんなもん。じゃあ、オレやボタンは、こき使われるもん。ってことは、上達もしていくもんなんですね。セージさんもマツリさんも、マジック上手いですからね」
「……そういうのはいいですから、さっさとしなさい」
「はーい」
「……もう少し歯切れよく言えたらいいんですけどね」
「そういうのはいいですから。さっさとしますよ。ばびゅーん!」
 テンマは勢いよく、モップを持って走り出す。それを見てセージは、昔の自分と少し重なり、ふっと笑った。

 ボタンから事情を聞き、これから夜の秘密特訓はスタジオで行うことにした。