舞台へ!


 秘密特訓もライトを使えるようになって、二人はさらに技術を磨いた。
 否、もうカミーリアには、夜に特訓をしていることがばれているわけだから、「秘密」特訓ではないかもしれない。
 ある日の朝礼で、カミーリアはメンバーに重大な発表をした。
「次回シリーズの公演では、ボタンとテンマにも出演してもらおうと思います!」
 それを聞いて、若手二人の瞳が輝く。だが、それに反対する声も出る。
「え、まだこの二人には無理ですよ!」
 それはマツリであった。若干焦りも感じられる。
「ちょっとくらい、失敗したっていいわ。さすがに大都市での公演は、もっともっと上達してもらわなきゃいけないけど。今度は中小規模でできそうな場所を回る予定だから」
「中小規模? そんな」
「うちにも来てください、ってオファーがいっぱいあってね。そういうところでやるかわりに、公演数は増やす。二人の経験が増えれば、また大きなテントつくってドーンとやるわよ!」
 そのカミーリアの自信満々な物言いに、マツリは萎縮してしまった。次に言葉を投げかけたのは、セージだった。
「出番はどのくらいで?」
「んー、そうねえ。まあ初めてだし、イントロのツーエイト程度ね。すごく短いから、時期スターの卵として、めいっぱい個性アピールしちゃいなさい」
「え、個性アピールというと、その……和妻とか、しちゃっても、いいんですかね」
「もちろん! ファンの皆にも、きっとすぐ覚えてもらえるわ」
「いやったー!」
 テンマは勢いよく、両腕を振り上げた。
 部屋中に響き渡った声がテンマ本人にも聞こえた。マツリとセージの鋭い視線に気づき、慌ててかしこまる。
「はい、では、このテンマ、カミーリア大魔術団の名に恥じないよう、一生懸命練習させていただきます!」
「わ、わたしも! 先輩たちの足を引っ張らないよう、そして、団員のボタンだと一度で覚えてもらえるよう、しっかり練習します!」
「はい、しっかりね!」

 りんぷんイリュージョンに、古典マジックである和妻。スピード感はまだまだだが、個性という面では、マツリやセージたちに見劣りしないだろう。
「消えてから、衣装チェンジとかできないかな。中にもう一枚着ておくとか」
「なるほど、衣装チェンジって見てて面白いしな」
 それから、ボタンは衣装カタログを見た。大魔術団が所持している衣装もあるのだが、新しいシリーズの時には、大抵衣装を新しく買うか借りるかしているのだ。
「あ、これとか素敵かも。衣装部屋にあった衣装とあわせて、あっちが消える前、こっちが後」
「え、どれどれオレにも見せてー。……いいな。これ、デザインがアゲハントに似てないか?」
「言われてみれば……アゲハント、りんぷんまいてから、すぐ私の後ろにまわることってできるかな?」
「ハーン」
 アゲハントはうなずいた。

 それから、ボタンとポケモンたちは個人練習を始めた。
 テンマは一人悩んでいた。和妻は流れるような魅せ方が特徴的。とてもツーエイトでできるものではないのだ。
「はじめに傘を出して、増やす……それじゃ、全然いいとこアピールできないっていうか……」
 テンマがため息をつくと、練習していたボタンが、どうした、と声をかけた。
 わけを話すと、ボタンも一緒に考え出した。考えること十分、ボタンから出た意見は、こんなものだった。
「傘の中に紙ふぶきを仕込んでおくとかどうかな? それで、ツーエイト分終わったら、わたしのバタフリーとミツハニーにパス。そんで、カミーリアさんのパートで、二匹が傘をひっくり返して、紙ふぶきを出す、と」
「……何だそれ」
 テンマはボタンの両手を握った。
「めっちゃいいじゃん!」