帰郷


 若手二人を起用したシリーズも終わり、あとは長期休暇といった時に、またしても重大ニュースが大魔術団を駆け巡った。
「公演を見た人から、いっぱい感想をもらえました! その中に、若手二人が可愛い、もっと見たいっていう声がいっぱいあったので……」
 テンマは三角座りのまま、ごくりと唾を飲み込んだ。自分たちにプラスなニュースだとわかったからだ。
「次は、テンマとボタンをメインに、ショーを考えようと思います!」
「うおおおおおおお!」
 思わず二人は叫んだ。
「メ、メイン!? さすがにそれは」
 やはり食いついたのはマツリだった。
「若手を育てる、それも団長の仕事の一つ! それにファンは彼らを待ってる。あなたたちが出世したのと同じパターンよ」
「うっ……」
「そうねえ、私は司会でもしてようかしら。カーテンコールでちょちょいっとやっちゃってもいいけど」
「団長なしで、僕たちやってけるんでしょうか……」
「もちろん、サポートもするわ。それにセージたちなら大丈夫! しっかり後輩を支えてあげなさい。それじゃ、ミーティング終了。次会う時は、長期休暇後、ね」


 長期休暇に入り、テンマは故郷チョウジへ帰った。勢いよく戸を開ける。
「おこしやすー、って、テンマかいな」
「おう! オヤジ元気そーだな、傘屋、はやってるか?」
「まあ、ぼちぼちってとこやな。テンマはどや?」
「オレなー、オレなー、イントロちゃんとできたんだぜ! ほら、ブルーレイにもしてもらった」
 テンマは、カミーリアに貰った、ハナダシティ公演時のものが収録されたブルーレイ・ディスクを差し出した。
「おお、立派なもんがあるんやなー。うちにはまだ、ブルーレイなんてあらへんから、今買い時かもな」
「是非! ……そんでさ」
「ん、どうした」
「オカン、は?」
「……仕事や。イッシュにな」
「だよな……」
 テンマの母は、世界を股に掛けるキャリアウーマンだ。テンマは母のことを尊敬してはいたが、もう少し構ってほしくもあった。
 テンマは、あまり変わっていない家の中を見る。昔ながらの和室に、職人である父が作った和傘たちが、きちんと並んでいた。のれんの向こうに階段があり、その上が生活空間だ。
 その、のれんのある壁の向こうから、見知らぬポケモンが顔を覗かせていた。
「オヤジ、あれ、なに?」
 テンマがそのポケモンを指差すと、恥ずかしそうに引っ込んだ。
「あ、行くなよ! こっち来いよー」
「あいつはメスのユキワラシや。仕事でタンバに行った時、タンバは暑かろうってコガネの育て屋にオニゴーリとユキメノコを預けとったら、いつの間にか、な」
「へー、子供かー。おい待てっ! はい捕まえた」
 テンマに捕まり、ユキワラシは短い足をばたつかせた。
「ユキワラシ、こいつはおれの息子、テンマだ。写真でいっぱい見せただろう?」
「シュワシュワシュワ」
 ユキワラシは、テンマの顔をじっと見た。そして、思い出したように目を見開き、そして笑った。
「へへっ、こいつ可愛いー!」
「シュワー!」
 テンマが腕の力を緩めた時、ユキワラシはするりと床に下りた。そして戸に向かう。
「外に行きたいのかな……?」
「丁度いい。皆でも散歩でもするか。オニゴーリ、ユキメノコ、お前らもどうだー?」
「シュンシュン!」
「メーノゥ!」
 父の誘いに、もうすっかり夫婦といった二匹が二階から降りてきた。