意外な一面


 チョウジタウンも少しずつ涼しくなってきた頃、長期休暇も終わった。
 約束の日、約束の日時に、カミーリアはウインディに乗ってテンマを迎えに来た。マツリ、セージも一緒だ。
「よーし、あとはボタンちゃん。二人を迎えに行くのも旅行みたいなものね」
「いいよなー、新人さんは迎えに来てもらえて! あたしとセージは早朝に集合だったよ」
「まあ、おかげでいろんなところに行けてるわけですし」
 クロバットにつかまれたまま、セージが言った。
「……まあね! 聞けばここ、いかり饅頭っていう名産品があるそうじゃない」
「え、そうなの? それじゃ皆で食べよっか」

 土産屋の外にある長椅子に並んで腰掛け、一行はいかり饅頭を頬張った。
「おいしー!」
「体力回復っ!」
 長旅に疲れたウインディたちも、幸せそうに食べた。
「それで、このお金は……セージが、払ってくれるんだよね?」
「はい? ……はい、まあ」
 マツリに上目遣いで見つめられ、セージは渋々財布を出した。

 アサギシティに着いたころにはもう日の入りの時刻であった。
 夜行のフェリーで、カラサを目指す。その時、テンマはボタンのホームタウンはキンランシティという町であることを聞かされた。
 カミーリアの、タイミングが良ければ彼女の意外な一面を見られるかもね、という言葉には疑問符が浮かんだが、それについて雑魚寝の布団で考えていると、すぐに眠りについてしまった。

 翌朝港に着き、一行はキンランシティに向かった。
 カミーリアが待ち合わせに指定した広場にボタンはおらず、彼女はわざとほくそ笑んだ。
「遅刻かしら? しょうがないわねー」
 そう言って、町へと入っていくカミーリアを、テンマたちは慌てて追いかけた。

「イワーク戦闘不能、アゲハントの勝ち。よって勝者、ジムリーダーのボタン!」
「参りましたー!」
「なかなかのバトルではありましたが、あと一歩工夫が足りませんでしたね。またジムやってる時に挑戦を受けてさしあげましょう!」
 そう言って、窓の向こうの、テンマがよく知っているはずの少女は、アゲハントをボールに戻した。
「あいつ、今どや顔で……」
「ねっ」
 後ろで見ていたカミーリアが笑った。

 ボタンは、ジムの時計を見て、約束の時間を過ぎていたことに気がついた。
「あちゃー、ちゃっちゃと片付けるつもりだったのにー、よりによって今日、腕が立つトレーナーなんて……」
 そのままドアを勢いよく開くと、そこにはカミーリア一団がいた。
「ひゃっ! ……ひょっとして、見てたんですか?」
「時にはカミーリア大魔術団の若手マジシャン、時には虫タイプをエキスパートとするジムリーダー、ボタン……。なかなかかっこいいじゃない!」
「ほんと、ボタンって、バトルは強いんだよな。あたし炎タイプのポケモンいっぱい持ってるけど、勝てるかどうかわからないし!」
「バトル、は、ってどういうことですか?」
 一同は苦笑した。

「最後の方だけ見た。ボタンって、なかなかアグレッシブなんだな……いつものオレより余裕で」
「もうっ!」
 二人は、カミーリアと共にウインディにまたがり、広がるカラサの大地を見ながら、休暇前と変わらない会話をした。
「テンマには新しい仲間、ユキワラシが加わったし、新しいプログラムでの公演は三ヵ月後! しっかり頼むわよー」
「はいっ!」
 カミーリアの声に、テンマは元気よく返事した。