自覚しました。


 合同練習の休憩時間、テンマはセージに呼び出された。
「ま、また、パシリでは」
「違いますよ! 調子狂うんですよね。次の主役が、一体どうしたというんですか?」
「なんですかそれ。どうもしてませんよ……」
「動きを見ていれば、すぐにわかります。それも、ユキワラシとテンポが合わないから悩んでるとか、そういう単純なものでなく」
「……じゃあ、練習終わったら聞いてくれますか?」
「わかりました」

 カミーリアがすぐに和妻を覚えたこともショックであったが、テンマはもう一つ、内なるショックを感じていた。
 テンマがショックを受けたのは、ただ同じ道を歩む者として、ということで、そこにカミーリアへの恋心はなかったのだ。
 つまり、カミーリアへの想いは、元から恋ではなく憧れだったのか、ということが、もう一つのショックとなっていた。

 一度回って桜の花を出し、枝を引っ張るようにして傘を出す。これがスムーズにいけば、パフォーマンスとして手ごたえのあるものとなるが、これがなかなか成功しない。
「ああっ、もう!」
 気持ちの整理がつかないままこんなことをしていても苛立つだけだ。そんなテンマに、次はボタンが話しかけた。
「大丈夫か?」
「ボタン……」
「焦ってたって、上手い演技できないよ」
「そうよテンマ、ボタンの言うとおりだわ。いつも元気なあなたらしくない……」
 ありがたい団長の言葉も、今はただ耳を過ぎてゆく。
「……」
 ボタンは戻って練習を続けるふりをした。そして、いつも成功していたイリュージョンに、わざと失敗する。
「あ、失敗」
「ボタンも焦ってるんじゃない?」
「そうかもしれません」
 違う。ボタンは焦っているんじゃない。きっとそれは、カミーリアもわかっているだろう。
 独り自分に篭るテンマを、皆励まそうとしているのだ。
「ボタン……ありがとな」
 その姿を見て、テンマは力なく言った。
「は、わたし、なんかした?」
「した。なんかをな」

 練習が終わってから、セージとテンマは並んでソファに座った。大魔術団の男二人とはいえ、接点はあまりない。
「こうやって話すのも初めてだな」
「どうしたんですか、敬語が抜けてますよ」
「すいません。あの、セージさんは、カミーリアさんのこと好きですか?」
「いきなりですね。勿論ですよ、団長のことは尊敬しています」
「そういう意味じゃない! 異性として、ってこと……です」
 意外な質問に、セージは目を丸くした。
「……そうですね、そういう意味で、好きだった時期があるのかもしれません。でも、ただの憧れだったのかどうか」
「ってことは、やっぱり」
 自分も。自分が抱くこの気持ちも、憧れなのか。
 カミーリアに想い人がいることは、入団前からの噂で知っていた。それでも、彼女への想いは入団への原動力へとなったはずなのに。
「まあ、色々整理したいこともありましょう」
「はい。でも、今は」
 セージは、黙ってテンマの言葉の続きを待つ。
「今は……」

 ボタンのことが好き。
 テンマは、そう自覚していた。