あの時のポフィンの味


「観てたよライラック、優勝じゃん」
「リンド。随分珍しい人が観に来たものね」
「ハハッ、まあね。君がエントリーしたらいつも優勝するって聞いてたもんだから、一度観に行きたいとは思ってたんだよ」
「そう、それはどうも」
 それからすぐリンドと別れて、私はジムに戻った。
 ジムトレーナーの数人はコンテストを観ていたらしく、今日も優勝お疲れ様ですと言われた。
 優勝お疲れ様です。そう言われるほど、私の優勝は日常茶飯事となっている。
 そしてそれを言われるたびに、私は昔のことを思い出す。
 あの頃はまだ十代で、全てが輝いて見えた。


 そのどでかいハコは、ヨスガシティにあった。
 この地方のコンテスト会場は、ここだけ。
 今まで、ポケスロンやポケモンミュージカルは観てきたけど、ポケモンコンテストは初めてだ。

「えーと、これから始まるのは“たくましさ部門”か」
「そこのお嬢さん、この時間帯はわりと空いてるから、ポケモンと一緒に観てくれていいんだよ」
「ほんとですか? ……カモン、ハブネーク!」
 私は、一番の相棒ハブネークをボールから出した。
「へっ、蛇っ!」
「何か問題でも?」
「い、いや……とにかく、楽しんできてねーっ!」

 エントリーは四人と四匹。
 あ、あの人知ってる。あの人も……雑誌で見たことある。
 さすがマスターランク。サクハ地方住みの私でも知ってる人がいるなんて。

「おぉーっと! トモエのオオタチ、すてみタックルがクリーンヒット! これは大きい!」
「お、やべ!」
「すげーっ!」
 会場が盛り上がる。私もそのポケモンに目が釘付けになった。
 トモエという人のことは、私は知らなかったけど。

 その日のコンテストは、結局それでフィニッシュだった。
 すごかったね、大逆転だったな、と、ロビーで皆興奮気味に話している。
 しかし、そんな群集も少しずつ減り、コーディネーターを待つ者だけになった。
 彼女らが楽屋から出てきたその時、待ってましたと言わんばかりに、皆彼女らにかけていく。
「あーもう、ファンレターはボックスに入れてって言ったでしょー!」
 係員の人が止めにかかる。
 私、ちゃんと引きとめられるのかな。できたところで、何か話せるのかな。
 まだ何も考えてないけど、とりあえず私も彼女、トモエさんに向かっていった。

「トモエさんっ」
 他のファンたちはもう用は済んだらしい。
「あのっ、次はいつコンテストに……」
「うーん、私と私のポケモンの気が向いたら、かな?」
 求めていた答えと違って、私は少しがっかりした。
「あなた、コーディネーターなの?」
「いえ……舞台に興味はあるんですけど、具体的に何をすればいいのか」
「じゃあ何で呼び止めたの?」
「……あ、あなたが素敵だと思ったからです!」
 我ながら幼稚な回答だと思ったが、本当の気持ちだった。
「ふぅん、コンテストでも、他の何かでも、大切なのはコンディション! あなたの可愛いハブネークちゃんに、このポフィンあげちゃうわ!」
 そう言って彼女は、ハブネークにポフィンを差し出す。
 ハブネークは、とても喜んで食べた。
「それじゃあね」
 彼女は、もうすでにファンの姿がないロビーから出ていった。

 あの人、一目見ただけでハブネークの好みがわかったのかしら?
 次いつコンテストに出るかはわからなかったけど、学ぶことは色々あるはずだ。
「ハブネーク、コンテストには興味ある?」
「ハァッブ」
 ハブネークは、何度もうなずいた。