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サミナの話を練ろうの会(3)
2018/10/14(Sun)
 デイジとの一戦は、結論から言うと完敗だった。砂漠で鍛えられたポケモンたちに、人工島しか見たことがないサミナのポケモンは手も足も出なかったのだ。
「そんな……」
「少数民族の暮らしや伝説を復興させる運動は世界中で起きてる。これもグローバル化の恩恵だろうな。だから、サミナちゃん、君ももう一度考えてほしい」
 言って、デイジは場を去った。その後も、足音がずっとサミナの内にこだましていた。

 なるほど、とコアは唸る。
「もう手段なんて選んでられない! もっと強いトレーナーと戦って……」
「わかったよサミナ。じゃあ」
 はじめて呼び捨てで呼んで、コアはサミナの肩に手を置いた。
「自分で行け」
「えっ……? でも私、ここしか見たことがなくて」
「君は変わりたいんだろう? だったら言い訳しちゃ駄目だ。彼に何かを伝えたいなら、見聞を広めて自分はどうしたいのかもう一度考えるべきだ」
 はっきりと言われて、またサミナは心を閉ざしかけた。しかし、コアの言うとおりだ。
「俺はかつて、この島の街開きに関わった。それから、いろいろな人やポケモンが移住するにつれて、多様な文化や考え方を受け入れることになった。ここは自由だ、そう思ってくれるのは嬉しい。だけど、この土地に縛られてしまうと、やっぱり物事を多角的に見ることはできなくなってしまう」
「コアさん」
「外を知るんだ、サミナ。ペンタシティへは定期船が出ている。ラルクとガリオンの二人にも話しておくから、君がポケモンとともに本土を歩むんだ」
 私がポケモンとともに。
 コアの言葉に、ポケモンたちは賛成のようだった。思えばサミナは、ロゼリアの生息するような広い花畑も、カエンジシが走る燃えるような大地も、何も知らない。
 この子たちの、ありのままの姿を知らない。
「……わかりました、私行きます。ただ……」
「ただ?」
 そこでどもってしまったが、コアは続きを促すことはせずに待ってくれた。
「どんな状態で帰ってきても、受け入れてほしいです」
「……はは、なんだそういうことか! お安い御用だ、どんな姿で帰ってくるか、楽しみにしてるよ」
「ちょ、それはそれで……!」
「肩肘張らずに行ってきな、ほれ、選別だ」
「え?」
 コアはサミナの掌に小物を落とした。それは黄色い星がモチーフのヘアピンだった。
「本土は山もあれば強風もある。前髪持ち上げて、視界がきいたほうがいいだろ!」
「……ありがとうございます」
 サミナはそれをポケットにしまった。

 旅支度をして船に乗り、丸い窓にはめられたガラスを見てヘアピンの存在を思い出す。窓を見ながらヘアピンをつけると、なんだか背筋がしゃんとした。



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