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サミナの話を練ろうの会(5)
2018/10/15(Mon)
 海岸線に沿って歩き、たどり着いた場所はアスラタウンという小さな町だった。
 色とりどりのお花や木の実が風に揺れるのどかな風景の向こうには、煙を吐き出すドーラン山がそびえている。
 お花畑でのピクニックがひそかな夢だったサミナは、ポケモンセンターの厨房を借りて、サンドイッチを作った。もちろんポケモンたちには、彼らの大好きな木の実を入れて。
「いただきまーす!」
 まずは野菜と卵のサンドを一口。周りを見渡してさらに幸せな気持ちに浸る。デザートのフルーツサンドを口にしたとき、サミナはポケモンたちに話しかけた。
「ねえ、みんなおいしいかな……って、んん?」
 サミナはポケモンたち一匹一匹に視線を移し、最後のミノムッチを見たときに首を傾げた。
「ミノムッチ……ミノ、そんなんだっけ?」
「ぷしゅ?」
「はっは。この町の草地はお布団に丁度いいからなぁ」
 顔を上げると、そこには気の良さそうなおじさんがいた。ヘキサシティではまず見かけない服装から察するに、どうやら畑仕事を生業としているようだ。
「ミノ、変えちゃったんですか?」
「トレーナーのミノムッチは、バトルもするからミノの持ちが悪いんだな。そこで、ミノは大抵現地調達をしているのさ。お前さんは都会から来たのかい?」
「はい。いつももっと硬い素材のミノで」
「ならそれはゴミのミノだな」
「ゴミッ……」
 知られざるミノの素材を聞かされ、サミナは身の毛がよだつ思いがした。おじさんはまた笑う。
「人間にとってのゴミでも、ミノムッチにとっては大切な我が家だ」
「なるほど……?」
「その調子なら、わたしの畑にも驚いてくれるかもしれん。蜜も木の実もたっぷり採れるぞ。どうだ、付いてこんか?」
「えっ、でも、おじさんの土地ですよね? お金を払って譲っていただかないと」
「エーディア様の思し召しで出会えた旅人から金は取れんよ。ポケモンたちは準備万端だな。よし、レッツゴー」

 おじさんの畑には、ミツハニーと呼ばれるポケモンたちが飛び交っていた。おじさんは赤い額の個体をさして言う。
「今は働き蜂だが、あいつは女王蜂になるね」
「メスってことですか?」
「そうそう。お前さんのミノムッチもメスだから、オスとは進化先が違う」
「へぇー……」
 それも知らなかったことで、サミナには興味深い話だった。
「おっ、着い……」
「ローリー!」
 おじさんが言い終わるまでに、ロゼリアが眼前の花畑に飛び込む。ロゼリアそっくりのばら園だ。
「すごーい! これがばら……!」
「ロゼリアは、人間が青いバラの交配に成功したとき、いつの間にか隣りにいて発見されたポケモンと言われておる。ここには青いバラはないが、きっとどこか懐かしい感じがするのだろう」
「そうなの? ロゼリア」
「ロリー!」
 ロゼリアは腕をぶんぶん振る。どうやらサミナについてきてほしいようだ。
 ばら園を散歩していると、バラも品種ごとに香りが少しずつ違うのがわかる。どれも素敵な香りだ。
「ロゼリアのばらももっと良い香りになるのかな?」
「ロリ?」
「そうだなー、アロマセラピストのアシスタントをしているロゼリアは、みんな良い水を飲んでいるという。アスラタウンのわき水も甘くておいしいから、エーディア様の許すぶんだけ川から汲んできたらいいよ」
「そっかー。だって、ロゼリア! 行くしかないね。おじさん、色々と本当に有難うございました!」

 わき水を汲んで一杯。こんなおいしい水は飲んだことがないとサミナは感動を覚えた。
 険しい岩肌が空を突っ切る。ドーラン山はすぐそこだ。



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