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サミナの話を練ろうの会(10)【完】
2018/10/21(Sun)
 毎日のように訪れていたから、少し離れていただけでも懐かしく思えてしまう。
 ライザージムのアトラクション。はじまりはいつだって田舎道、そんな旅物語とは全く異にしているが、ポケモントレーナー、サミナの始まりの場所といえばここしかないのだ。
 傍らには旅をともにしたカエンジシと、ロゼリアと、そしてゴミのミノを選んだミノマダム。みんな旅立ちの日より逞しくなっていて、成長の早さにトレーナーながら驚いてしまう。私もこう見えていると良いのだけど。
「……コアさん!」
 何度もお世話になったジムリーダーの名を呼ぶ。彼が振り返る間、なんだか恥ずかしくなってヘアピンを隠してしまった。
「チャームが三つになりました。デイジともちゃんと話せました。それで私、まだミタマにいようと思います。もっといろんな町を見て、生まれ育ったこの地方のことをもっと知れたら、改めて砂の民のことも知れると考えたんです」
 チャームを見せるために、ヘアピンを隠していた手もとらざるをえない。コアはひとときの沈黙ののち、ぱっと表情を明るくし、いつもの親しみやすい笑顔を見せた。
「サミナーよかったー!」
 腕を広げてくれたから、そのまま飛びついてしまう。これも挨拶だ。頼れるジムリーダーが相手だとつい童心に返ってしまう。
「これ、つけてくれてたんだな」
 ヘアピンを指してコアは言った。サミナは照れながらも、正直な気持ちを話す。
「前髪持ち上げて、視界がきいたほうがいいって、コアさん言いましたよね。本当にその通りで、とても気持ちが軽くなりました。それに、これをつけてたら、なんだか勇気が湧いてくるみたいで」
「へえ、勇気、勇気。……なるほど……それはよかった!」
 コアは逡巡したのち、笑顔で答えた。

 一週間ほどをヘキサシティで過ごし、また旅支度を始めたときは、もう行くのかとコアに言われたが、とくに止められはしなかった。信じてくれている、と思うと、サミナの自信にも繋がった。
 二度目のペンタシティは、以前訪れた時よりも色々なものがわかってきて、ミタマ人としても、砂の民の子孫としても、視界の狭かった自分が変われてきているのだと嬉しく思った。
 背筋をしゃんと伸ばして歩くと、女性に声をかけられた。
「そのヘアピン、とても素敵ね。そのドレスも。そんなおしゃれなあなたに、少し付き合ってほしいことがあるんだけど……」
「え?」
 赤い長髪にビビッドな瞳。なんだかはじめて出会ったわけではないような、そんな不思議なオーラをまとった女性だ。

 本当はまだ照れくさい。それでも。

「エーディア様の思し召しで出会えたなら、是非協力させてください。それで……」

 前を向いて、生きていこう。

Fin.



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