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グローマの話を練ろうの会(7)
2018/11/11(Sun)
 コクリンのディープ・サウス、カミヨリタウンを目指して、グローマは海岸沿いの道を進んでいた。
 少しずつ木々も増え、ダンレオは興味本位に立ち止まったり、走り出したりする。グローマは一定のリズムで歩くほうが好きなのだが、そんな二者の間をメグロコが上手くとりもっていた。
 とことことダンレオがグローマの足下に寄ってきて、にゃあと鳴く。グローマはダンレオが示す草地を見た。グローマもよくポケモン治療に用いる、背の高い薬草だ。
「それじゃダンレオ、できるだけ際際を狙って。はっぱカッター」
「にゃお!」
 ダンレオのはっぱカッターは、旅立った直後よりわずかに威力を増していた。コントロールも良くなっており、薬草はまとまって倒れた。
「これでまた薬が作れるな……ん?」
 次はメグロコがグローマに近づいていた。メグロコの示す先にはロメの実がなっている。
「全く、よく見つけるなぁー。メグロコ、かみつく!」
 メグロコはそのアゴでロメの実の根本を食いちぎる。一度で噛みきれなかったが、メグロコは連続で噛み付いた。
「……ん? 噛み砕くを覚えたのかな」
 メグロコは落下したロメの実を硬い背中でキャッチし、ダンレオに向かってしたり顔をした。どうもダンレオとは張り合いたくなるらしい。
「まあ……メグロコとも付き合い長いしね」
 グローマは遠い昔に思いを馳せる。まだ、アドとよく遊んでいた頃から、メグロコはグローマのそばにいた。砂遊びや泥遊びを一緒にして、日が沈んで、また日が昇って。
 あの日々は永遠ではなかった。しかし、メグロコは成長を続けている。
 ロメの実をきれいに割って、ポケモンたちとみんなで休憩。これから別れた幼馴染に会うにしては、幾分か平和な光景だった。

 カミヨリタウンでは、稀有なものを見るような目を感じずにはいられなかった。
 それもそのはず、コクリン地方中で最もカミヨリの民が多い町なのだ。肌の色は目立たないが、グローマの薄い灰色の髪はどうしても視線を集めてしまう。
 それでも、ダンレオが堂々と歩いているから、グローマもそれに従った。ダンレオはコクリンの固有種、伝統の支配する町でも我が物顔だ。
 木々の茂る小道を進んでいくと、カミヨリタウンのジムがあった。それまでの伝統建築とは異なり、アカデミックな雰囲気をもつ白壁の新築である。
「……アド」
 無意識のうちに、グローマは呟いていた。このドアの向こうにアドがいる。止まった――否、グローマが止めることを選んだ時間を、今また自らの手によって、動かそうとしている。
 果たして目新しい扉は開き、視線の先には幼馴染がいた。数年会っていないが、夕焼けのような髪とそこに浮かぶ陽のような瞳が変わっていない。
 三つ歳下であるから、いつまでも子供だと思っていたが、そこに立っているアドは、いくらか大人びており、伸びた髪をおさげにしていた。ここに立つのは幼馴染の少女であり、ジムリーダーのアドでもある。
「シダオリタウンのグローマ。フラン博士からポケモンを譲られたトレーナーとして、ジムリーダー、アドに挑みます」
 そう宣言した時の、アドのかすかな動揺を、グローマは見逃さなかった。アドのジムリーダー就任が決まり、後味の悪い別れ方をしてから、いつか来るのかもしれないと確信していたのがこの日だ。
 逃げてはならない。目を逸らしてはならない。
「よく来たね。私はアド。カミヨリタウンジムリーダー、水タイプのエキスパートとして、トレーナー、グローマの挑戦を受けます」
 その言葉に、グローマはいっときの安堵を覚えた。アドが気づいていないわけはないが、今は、思い出を、あの別れをしまっておいて、トレーナー同士として実力を試そうとしてくれている。
「それでは挑戦者グローマ、右側のサイドへ」
「はい」
 はじめてのジム。緊張もあるが楽しみもある。ここまで来たのだから、目の前の試合に集中するしかない。



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