ホーム > 掃溜 > 2018年12月 > 2018/12/04

 
グローマの話を練ろうの会(8)
2018/12/04(Tue)
 アドの一番手はオムナイトであった。コクリン近海に生息していたとされる古代のポケモン。これも伝統に従った結果であろうかとグローマは一度考えたが、しかしオムナイトがこの時代に蘇ったのは近代技術の成果である。
 メグロコの威嚇でオムナイトは萎縮するが、トレーナーであるアドはそんなメグロコを優しい目で見つめた。
「メグロコ……久しぶりね」
 アドがそう言うのを聞き逃さなかった。メグロコはグローマの手持ちの中でもとくに付き合いが古く、アドのことも知っている。
「一緒に歩いてきたんだ。それじゃいくよ、いちゃもん!」
「しおみず」
 いきなり効果抜群の技をくらって、技選択に間違いはなかったが早期に決めなくてはならない、とグローマは悟った。水タイプ技がしおみずだとは。疲労してから受けると危ない。
「噛み砕く!」
 習得したばかりの強力な技だが、その指示にアドはにやりとした。
「転がる」
 オムナイトはバック転を挟み、そのまま勢いでメグロコにぶつかる。その後も威力を上げ何度も旋回し、グローマは一瞬、何が起こったのかはわからなかったが、よく見ると背中の貝がひとまわり小さくなっていることがわかった。
「……砕ける鎧。噛み砕くなんて技だと一瞬ね」
「そんな」
 身軽になったオムナイトの素早さに勝てず、メグロコは一方的に技を食らっていたが、グローマは何とかできないかと考えた。
「相手は軽いはず。前足で止めるんだ」
果たしてメグロコは前足を上げた。オムナイトはメグロコの腹部でがっちり押さえられ、回転の勢いを落とす。
「あと少しだ、耐えるんだメグロコ!」
 グローマが叫んだその時、メグロコの身から光が溢れた。後ろ足でがっちりと踏み締め、自由になった「腕」でオムナイトを完全に押さえる。
「もう一度、噛み砕けー!」
 防御の下がったオムナイトは、抵抗する力を失ってしまった。
「オムナイト、戦闘不能。メグ……ワルビルの勝ち」
 審判がそう宣言し、グローマははじめて、メグロコが進化したのだと気づいた。
 ワルビルは、慣れない二足でしかし確実に歩み、グローマのもとへ戻って笑いかけてみせた。
「ワルビル、やったな」
「ぐわぁ!」
 アドは事務的な態度でオムナイトをボールに戻しつつ、ボールを見つめなにか言葉を囁いた。
「次はこの子よ、シードラ」
 アドはシードラを繰り出すなり、高速移動を指示した。砕ける鎧とは違いデメリットのない素早さ上昇技に、感嘆には勝たせてくれなそうだとグローマは察知する。
「竜巻」
 二足になり腕が自由になったところで、全身の自由を奪う技を冷静に指示し、ワルビルはあっさり捕われ、とどめを刺されてしまった。
「ありがとう、戻れ」
 もう一匹は、ともに旅立ったばかりのダンレオと決めていた。ワルビルでもシードラにダメージを与えておきたかったところだが、振り出しに戻ってしまっては仕方ない。的確な指示をし、パートナーを信じるだけだ。
「行こうか、ダンレオ」
「ダンレオ……研究所のポケモンかしら」
「うん。旅すると決めて立ち寄ったんだ」
 ダンレオは格上相手にも怖気づくことはなかった。
「まずは距離を詰めて……」
 ひとつシードラにビンタする。シードラは屁でもないといった様子で、アドに指示されたハイドロポンプを容赦なく放った。
「やばい!」
「そのまま竜巻」
「はっぱカッターで弾け」
 ハイドロポンプと合わさった竜巻は、ダンレオの抵抗も虚しく、ダンレオを捉えた。効果は今ひとつであるから、まだ耐えられるが、長期化すると厄介だ。
「今だ。猫に小判」
 竜巻がシードラの真上に来たところでグローマは指示した。大小の小判は風に乗りシードラの頭上に落ちる。勢いのついた小判の威力に、シードラも思わず目を白黒させた。
 勢いがおさまり、ダンレオは着地した。
「ハイドロポンプ」
「はっぱカッター!」
 アドにはまだ策があり、これで勝てると確信していた。しかし、その二つの大技がぶつかり合い、それでも場に立っているのはダンレオのほうだった。
「どうして……!?」
 アドの声がこだまし、沈黙が訪れると、何かを咀嚼する音が聞こえた。
「……欲しがる。はじめの攻撃はこれだったんだ。まあ上手いよね、招き猫ポケモンなだけある」
「油断してたわ」
 アドはジムリーダーとしての態度を崩さず、シードラをボールに戻した。オレンの実を食べてご機嫌のダンレオは、グローマの足下へ戻り、彼を押すように足踏みした。
 審判がグローマの勝利を宣言し、バッジ授与になったところで、グローマは俯く。
「アド」
 勝てた。保守側についたと思い込んでいた相手に。裏切ったと勘違いしていた相手に。そして、かけがえのない幼馴染に。
「ごめん」
 瞑想をしているから感情が昂ぶる思いもめったに経験しなかったが、ここ数日の出来事が思い出され、グローマは涙していた。
「グローマ」
 アドははにかんだ。あまりにもジムリーダーらしくない、不器用な笑み。
「受け取ってよ。グローマならいつか来てくれるって思ってた」
「有難う」
 布貼りのプレートにのったナミナミバッジを、グローマは慎重に受け取った。

 目新しいジムと夕陽をバックに、暫しの間別れの挨拶をする。アドの髪は夕陽に溶けこむように燃えていた。
「アド。これからもずっと応援してる。……それと」
 言葉が続くとわかり、アドは首を傾げた。
「僕も発つことにした。移民する前の部族の人が僕に声をかけてくれたんだ。正直、彼についていくかついさっきまで悩んでたけど……アドも挑戦しているんだ。僕もそういう道を選びたい」
「グローマ」
「辛い道のりかもしれない。でも辛くなった時は、今日のバトルを思い出すよ」
 そこで、アドはからからと笑った。
「じゃあ、私もこのこと思い出そうかな!」

 地下洞窟の入り口を兼ねる世界一大きな一枚岩の前で、グローマとデイジは落ち合った。
「後悔はないか」
「ああ。砂の民末裔、グローマ。アドが幼馴染、デイジが友。改めて、よろしく頼む」



- Tor News v1.43 -