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ブリオニアの話を練ろうの会(8)
2018/12/18(Tue)
「利用者様っ……そんな、ポケモンを」
「火事場には慣れてる。アベルトさんはみんなを!」
 そう言ってデイジは銀髪の少女との距離を詰める。大聖図書館からなるだけ離れたところで戦いを続行するためだ。デイジとドンファンの足取りを見て、アベルトが言った。
「わかった。……くれぐれも気をつけて」
「彼は……?」
 アベルトが庇っていた、彼によく似た青年が言った。
「話はあとでだ、今は傷口を広げることはするんじゃない」

 火事場に慣れている、と言った。苦い記憶が思い出される。
 爆発音を鳴らすのは自分たちのほうだった。十年前、サクハの大統一時代。差別の撤廃とクオン遺跡の正式なタウン化を求めていた砂の民は、その手段をテロやゲリラに委ねていた。
「何も変わらなかった」
 銀髪の少女がこちらを見据える。
「何も変わらなかったんだ」
 そんな方法では。
 見過ごすわけにはいかない。発言してみれば、なんと分不相応な言葉であろうか。
「パレード、転がれ!」
 自分が言える立場ではない、しかし、投げやりな方法では何も生み出せなかったということは自分が一番わかっている。
「炎の牙!」
 距離を詰め、牙をむく。エアームドならば、同郷トリカの一番古い手持ちでもある。戦法は知っている。あとはブランシュネージュの被害をできるだけ拡大させずに対処すればいい。鋼タイプのエアームドに炎技は効果抜群のはずだが――
「鉄壁」
 エアームドは瞬時に、その羽根を硬化させた。思ったよりダメージが入らず、ドンファンはそのままバランスを崩した。
「待て……仕切り直しだ」
 その言葉で、勢いをつけるため再び場を周回するが、エアームドはその間に“羽根休め”で回復した。防御力が高まっている高めたエアームドは、転がって勢いを増すドンファンを嘴で受け止める。
「アイアンヘッド」
 エアームドの勢いに押し負ける。よく知っているポケモンのはずなのに、素早さ重視のトリカとはまるで育て方が違い、戸惑ってしまう。
「こっちだって威力は上げてんだよ!」
 ドンファンも応戦するが、転がっているせいで身体の節々を攻撃されてしまい、ついには体勢が崩れてしまった。
「くっ……」
「……感情論で戦うからこうなる。本当に目的を遂行したいだけなら、感情は殺したほうがいい」
 ドンファンが倒れたのを見て、エアームドが少女のもとに舞い戻った。二つにまとめた銀髪を揺らす彼女の眼光は、ただただ冷淡だ。
 その様子が、まるで過去の自分と被ってしまう。
「一理あるな。……でも、それでは何も生み出せないんだ」
 パレード! と叫ぶ。エアームドが地につき羽根を休め始めたその瞬間を狙って、地を揺らし始めた。“地ならし”だ。
「なっ……」
「羽根休め。わかってたぜ、あいつのエアームドにもよくしてやられたからな」
 羽根を休めた鳥は、そのターンだけ飛行タイプがはずれる。即ちドンファンの地ならしは効果抜群、使い慣れたタイプ一致の技であるから“炎の牙”よりダメージが入る。
「これで素早さも下がる。もう押し負けることもない!」
「……エアームド、全力でいけ」
 ドンファンは勢いを付けて転がったまま跳躍する。それにエアームドが対峙する。
 果たして、この結果は。

「……“ブレイブバード”。まさかこんな消化戦で使うなんて」
 その全力で相手の懐に飛び込む技をくらい、ドンファンにはなすすべもなかった。反動ダメージも大きいはずだが、羽根を休めていたぶんエアームドに分がある。
「パレード……!」
「ついでだから言っておく」
 倒れたドンファンに駆け寄ったとき、頭上から冷たい声が降ってきた。かつての自分より無感情かもしれないとデイジは思う。
「……ブリオニア。あなたにそっくりな髪と目と肌の色をした仲間が、こちらにはいる」
「え」
 仲間?
 確かにそう聞こえて、デイジはもはや動揺を隠せない。
「彼女も戦闘に無駄な感情を持ち込まない。「あなたに似て」強い、よき仲間を得られた」
「……ヴェ」
 その時、かすかに彼女を呼ぶ声がした。動揺と慣れない雪原という環境の中、朦朧とする意識を最後の最後で奮い立たせると、奥に赤い影が見えた。
「そんな……」
 追おうとするも叶わず、デイジはその場で気を失ってしまった。パレードとふたり、雪だけが二人を包む。



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