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サミナの話を練ろうの会(2)
2016/06/10(Fri)
 同志って、と尋ねる前に、サミナは突如現れた男の顔立ちを見つめた。そして悟った。
「――サクハ地方砂の民」
「自分のルーツすら言えないやつにも会ったけど、お前はそうではないみたいだな」
 お互いに冷静を装っているが、それぞれに焦りが滲み出る。
「ねえ、それって、私以外にも「砂の民」に会ったってこと?」
「俺は今でもサクハ地方クオン遺跡が実家だ。今はこうして旅してるけどな……全世界に散った「砂の民」をクオンに呼び戻すために」
「どうしてそんなことを」
「決まってるだろ。俺たちは虐げられてきた民族だ。その証拠に、お前の曽祖父母のように、故郷を追われた人やポケモンだっている。サクハが統一された今、今こそが、見返してやるときなんだよ」
 デイジは、それまでサミナが真っ直ぐ触れようとしなかった自民族の歴史と今を一気に話した。
 民族衣装はとうにやめ、人工島ヘキサシティに居を構えたサミナとて、自身の白い髪、赤茶色の目、そして褐色の肌を見ると、なんとなく後ろめたさはあった。
 「砂の民」の血は四分の一しか入っていないというのに、とにかく外見に反映されるぶんが強すぎるのだ。
「仲間も動き始めてる。世界を周って強さを身に着けたり、サクハの上層部にありとあらゆるコネを使って働きかけたり……まああいつのやってることは俺もよくわかんねえけど。それで、何人かは、サクハへの帰郷を決めてくれた」
「決めたの!?」
「ああ。だからサミナ、お前にも……帰ってきてほしい」
 語調は柔らかさを保っていたものの、デイジのサミナに似た赤茶の目は、獲物を追う獣のようにギラギラとした光をたたえていた。「砂の民」は、散々、多数派先住民の「アフカスの民」から、野蛮だの獰猛だの言われてきているが、この瞳を見てしまうと、たしかにそのような偏見を抱いてしまうかもしれない。
「だけどっ! 今はもう、私はミタマの人間で」
「住処に出来て間もない人工島を選んでおいてよく言う」
 サミナはぎくりとした。それは、今までに何度も自分の中で言い訳し続けていたことだった。
 ここは新しい街だから、ムラ社会も複雑な階級制度もない。……だから、人間関係は希薄でいい。
「まあいい、俺は会えて嬉しいんだ。ポケモン持ってるんだろ? バトルしようぜ」
「……望むところよ」
 トレーナーたるもの、バトルを申し込まれたなら、受けて立つのみだ。サミナは、ずっと持っていたモンスターボールをそのまま投げ上げた。
「ロゼリア、お願い!」
「今日も頼んだぞ、パレード」
 パレードと呼ばれたデイジの手持ちは、平均より一回りは大きいドンファンだった。ロゼリアとは体長に差がありすぎるが、ロゼリアはいたって冷静だ。自分のポケモンに倣って、サミナも確実な技を支持する。
「“草結び”!」
 相手が重量級であればあるほど威力の高くなる技だ。さっそくドンファンには大ダメージとなった。
「パレード、怯むな。そのまま“転がる”の起点にしろ」
 ドンファンもバランス感覚が鍛えられているのか、完全に足取りを崩すことはなく、近距離からの“転がる”でロゼリアを軽く飛ばした。
「砂漠の環境で鍛錬してきた。このぐらい、へでもない」
「強い……」



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