第10話 〜ゆかいなバトル!〜

 火山の頂上。
 空気が薄いだけあって周りには誰もいない。とりまく霧が神聖な雰囲気を創る。
「これでふたつめだな……」
 その場所にいるポケモンの影は、“キザキのもり”で<時の歯車>を盗んだポケモンと同じであった。そして今回も、<時の歯車>が目当てであった。
「みっつめからは……難しくなりそうだな。でも今はとりあえず!」
 そのポケモンは<時の歯車>を取った。
 たちまち霧は、縫い付けられたように止まった。



「ここが“えんがんのいわば”ね!」
 開口一番、ベルが言った。
「あの〜、この時点でもうつかれているおれは……」
「だいじょうぶ! わたしたちがいつでもいるから! ちょっと休んでから行こう」
「そうでゲス!」
 テルはその言葉に安心した。仲間というものは良いものだ。
「そういえば、ずっと訊きたかったことがあるんだけど」
「ん? なに?」
「何で名前のついているひとと、名前のついてないひとがいるの? ベルには名前がついているのに、ビッパにはついてないじゃん」
「んー、あっしの場合、これが名前でゲスからねえ〜。お母さんとかの記憶がないでゲスから」
 お母さんの記憶? そんなに前に両親と別れたのかと思うと、なんとなく悲しい気持ちになる。ということは、テルは、自分は人間時代には両親が共に一緒にいたんだな、と何となくわかった。
「わたしの場合は、お母さんが名前を教えられてから別れたの。自分で名前を覚えるまで待っててくれたんだって。名前を持っているひとは両親と別れるのが遅かったひとか、名前を覚えられるまで親側が待っていたか、どっちかよ」
「なるほどな〜」
 子供のまま自立しなければいけないポケモンもいる。だから、名前を覚えるまで待つという親の行動は、おそらく最後の優しさなのだろう。
「テルは、誰に名づけられたんでゲスか?」
「んー、憶えてないけど……やっぱりお母さんかお父さんかな?」
「いい名前ゲス!」
「ありがとう」

 えんがんのいわばは、進んでいてなかなか心躍る場所だった。ポケモンたちはダンスをしながらバトルをして、勝ったらあっさり通してくれた。
 だが、その中でも……。
「オラは通さんよ。アイスボール!」
「わぎゃあああ!!」
 だいぶ進んだところで、トドグラーに出くわした。
「よおし! “まるくなる”!」
「ビッパ、攻撃された後でそれはないんじゃ……攻撃しようよ、役立たずになっちゃうよ」
「……」
 テルは炎技でトドグラーを攻撃したが、トドグラーは特性に“あついしぼう”がある。
「ほとんどきかないさー!」
「このぉっ!!」
 テルはキレたが、ちょっとでも隙を見せるとまた“アイスボール”を投げられてしまう。
「いってー!!」
 テルはまた“アイスボール”を投げられた。ベルはすぐにテルに“オレンの実”を投げた。
「ありがと、ベル。……ん?」
 見ると、さっきまで役立たず扱いされていたビッパがトドグラーの後ろにまわりこんでいた。
(そうか、トドグラーがこっちに気をひいている隙に……!)
「やーいトドグラー、おれはまだ大丈夫だー。通っちゃうぞー」
「なんにー!?」
(今だ!)
 トドグラーがテルに襲い掛かってくる。テルはほんとうはものすごく怖いのだが、ビッパにウインクして合図した。
「いっけーーーー!! でゲス」
 ビッパのずつきは、トドグラーの背中に針のようにつきささった。
「ナイスよビッパ! 役立たずって言ってごめんね」
「ありがとゲス。でもこれじゃ、ベルが役立たずでゲスね」
「……あのねえ……」
 トドグラーは自分が負けたことを認めると、すぐに道をあけた。
「ここを通ってどこへ行くんだ?」
「“ツノやま”を通って“のうむのもり”まで行きます」
「そうか、頑張れよ!」
「はい!」



『<時の歯車>集めは順調のようだな』
「はい。でもこれからが難しいわけなのですが』
『お前にならできる。未来のために頑張るのだ、ゼルマよ』
 その時、<時の歯車>を持って逃げていくポケモンを、野生ポケモンが目撃した。そのポケモンの足は、速すぎて見えなかった。
「あいつは……ジュプトルだ!」