第12話 〜森の支配者〜

「おきろーーーーっ!!」
 ドゴームのばかでかい声がキャンプ中にひびきわたった。
 テルは起きた。テントにはモモもいたはずなのに、モモは見当たらなかった。
「あれー、モモ?」
「ここよ。先に起きてたの」
 モモはテントの近くの木の下にいた。
「ドゴームより先に起きちゃったから、散歩してたの。でも、ドゴームがいつあの大声を出すかと考えたら、心臓に悪かったわ」
「すまんすまん」
 他のテントから、ギルドの仲間たちが次々と出てきた。
「おはよう、テル」
「おはようですわー!」
「うん。おはよう、みんな」
 テルはみんなと挨拶をすませた。それから、いつもの朝の会になった。
「それじゃ、各自準備ができたら、“のうむのもり”へ向かうよ♪ チームを持っているひとはチームで、持っていないひとは持っていないひとどうしでチームを組んでね。
仲良く楽しく探検するんだよ♪」
「おーーっ!」



 “のうむのもり”はその言葉のとおり、霧が深い場所である。ほんの数メートルまでしか見渡せない。
「そういえばモモ、さっきから持ってるそれ、何? 紅くてきれいだね」
「さあ、わからないけど。朝の散歩中に拾った。きれいでしょ?」
「うん。それじゃ森に向かおう」

「うう……でもやっぱりこわいな……記憶を消されるんでしょ?」
「何弱気になってんのよ! ああ、テルはいつも弱気か」
「なんだとー?」
 テルはモモのほうを見た。モモは青ざめていた。
「……モモ?」
「あれ……」
 モモの指差した木の枝には、ヨルノズクが5羽程いた。みんなテルとモモの方を見ている。テルも青ざめた。
「ひ、ひのこーっ!」
 テルは震えながら技をくりだしたが、ヨルノズクは全員よけた。
「<日照り石>を返せっ!」
「きゃあ!」
 ヨルノズクはモモだけを狙っているようだ。テルはモモをかばった。
「何だよ、<日照り石>って!」
「ゴンベが持っている紅い石のことだ。それを使われたら我々は暮らしていけない」
 リーダー格のヨルノズクはそれだけ言うと、またモモを狙った。
「だめだだめだーっ! モモを傷つけるなー!」
 テルはわけもわからず“ひのこ”を連発した。
「ギャーっ!!」
 ヨルノズクたちは次々と倒れていく。
「まだ私は倒れていないぞ」
「うっ……」
 テルとモモは、その後すぐに何かにしめつけられるような感覚になった。ヨルノズクは別に何もしていない。
「はは……これは“じんつうりき”だ。痛いだろう? <日照り石>を返せ」
「……」
 テルもモモも何も言うことができない。“のうむのもり”は再び沈黙した。
「……」
「もっと力を強くするぞ? 早く返すことだな」
「……これは私が拾ったものなの……そんなにとられたくなかったら自分で持っておけばいいじゃない」
「それをあの場所にはめてしまったら、我々はどうしても困るのだ。朝のないこの森に、朝がやってくるのだからな」
 テルとモモは、“じんつうりき”から開放された。どうやらもう充分だ、とヨルノズクが思ったらしい。確かに、これ以上の痛みがあるのだろうかというほどテルは傷ついていた。
「朝のこない森……太陽がのぼらないの?」
「いや、朝は来る。だがこの霧で、いつも暗いのだ。朝が来てしまうと、あのポケモンたちの反撃をくらうことになる」
「は?」
 ヨルノズクはうつむいた。そして弱そうな声で言った。これもひとつの作戦なのだろうか、とモモは思ったが、おとなしく耳を傾けることにした。
「我々は夜に活力が増す。明るくならないこの森で、我々ヨルノズクは好き勝手をしていた。だが、明るくなってしまうと……今までいじめてきたパチリスやミミロルの活力が増し、
我々に反撃してくるだろう……」
「……続けて」
「パチリスやミミロルから食料をうばったりしはじめたのは私だ。明るくなることが世界の運命だとするならば仕方がない。だが、仲間たちまで反撃されることは許せない」
 仲間というのは、倒れたヨルノズクたちのことだろう。
「……バカじゃない? そんなこと聞いたら、よけいこの石は渡してはいけないものだって思うじゃない」
「でもモモ、使い方がわからないよ」
「そうだけど、持ってたらどこかで使えるかもしれないでしょ? 私がこの森を明るくします、絶対に!」
「ちょっ……モモ……」
 ヨルノズクは、さっきくりだした“じんつうりき”に力を使いすぎたせいで、どうやら攻撃はできないようだ。
「明るくなっても、反撃を受けない方法を探してください」
「反撃されない方法を……」
「パチリスやミミロルから盗んだ食料を渡して、許してくれるように言うしかないよ。森はいろんな生き物がいる場所だから、お互い助け合わないと。
パチリスやミミロルがいなくなってしまったら、君たちは困るだろ」
「……わかりました。それでも反撃をくらうというのであれば、わたしだけで仲間の分もくらいます」



 テルとモモは、ヨルノズクに森の出口までつれていってもらった。
 そこでヨルノズクにお別れをした。
「ユクシーには気をつけてくださいね……」
「う、うん」
 忘れていた。テルはユクシーの話を思い出して、冷や汗をかいた。