第13話 〜紅い石と森の踊り〜

 森を出てしばらく進むと、テルたちはたくさんの滝にでくわした。
 上から絶え間なく水が流れ落ちてきているが、霧のせいでどこから流れてくるのかがわからない。
「どこか……進める場所、ある? いきどまりみたいだけど」
「ないな。ユクシーなんてほんとにいるのか? わっ!」
 テルが顔をモモから正面に向けると、そこに敵が立っていた。
「ぎゃわわー! ひのこー!」
 だがひのこはくらっている様子がない。それは敵ではなく像だったのだ。
「バッカじゃない? そんなことくらい、見りゃわかるでしょ」
「いやー、“のうむのもり”のヨルノズクがトラウマでさー」
「ああ。あの、ふりむいたらヨルノズクがいたってやつね? それはいいとして、この像何なのかしら? 捨てられたとか」
「ポケモンの像だよね。ナナメになってるし、せっかくだからちゃんとたててあげよう。ふんぬっ!」
 テルは像をもちあげようと、その像にさわった。その時、あの痛みがおそいかかってきた。
「テル……?」
「きたんだ……あれが……!」

 少年はくぼみに、紅い石をはめました。
 すると周りは明るくなって、彼の進むべき道がわかりました。
 少年は、また走って進みました。

 なるほど! これはやっぱり、あいつの話していたとおりなのか! よし……

 プツン!
「テル、どうだった? 何が聞こえたの?」
「なんか……くぼみに紅い石をはめたとか……ん? 紅い石?」
「これじゃない? 紅い石って? くぼみって何なんだろう」
 テルはモモの言うことをききながら、像をまっすぐにたてた。土にうまっていた部分に、ふしぎなくぼみがあった。
「ひょっとしてこれなんじゃない?」
「そうかも……。モモ、このくぼみに紅い石をはめてみて」
 モモは、石をくぼみにはめた。ガコッと石がはまる音がして、あたりはまばゆい光につつまれた。
「!?」
 テルたちは目をつぶった。5秒後、光がおさまったと感じたため、目をあけた。
 そこは全く見たこともない風景だった。
「霧が……なくなった……」
「これがヨルノズクの言ってたことね。あ、見てみて!洞窟があるよ」
「ほんとだ。滝は洞窟の上から流れてるみたいだね。ってことは頂上までのぼれば湖が……?」
「そう思う。外からは頂上までのぼれそうにないから、とりあえず洞窟に入ってみよう」
 テルとモモは、洞窟までかけていった。



「ついにこの森に朝がきた! みんな、ヨルノズクに反撃だー!」
「反撃だー!」
 “のうむのもり”で、ヨルノズクに散々いじめられてきたパチリスやミミロルが一致団結し、ヨルノズクの巣に向かっていった。
「ヨルノズクー! 覚悟ー!」
 パチリスが“ほうでん”でヨルノズク全員に攻撃した。
「待て、パチリスども! 攻撃するのは私だけにしろ!」
「おお、おやびん……」
「お前たちは逃げろ! 周りが明るく、まぶしいと言うのであれば目をつぶって逃げろ! 傷つくのは私だけでいい!」
「嫌よ! あたしだって悪かったもの。反撃をくらうのは当然よ」
「オレもー!」
「ぼくもだ!」
 どうやら、誰もパチリスやミミロルに攻撃しようという考えは持っていないようだ。明るくなる前に、リーダー格のヨルノズク が自分のしたことは恥ずべきことだったと他のヨルノズクたちに話したのだ。
「おやびんのやったことは……そりゃ悪かったんだろうけど、それで嫌いにはならない! だから逃げないよ!」
「……仲間たちよ……」
 すっかり傍観者になりつつあるミミロルが、
「それでは……私たちに謝ってもらえますか?」
 と言った。
「ああ、謝ろう。申し訳なかった」
「ごめんなさい! もうしません!」
「ぼくもあやまるよ! 悪かった!」
 リーダー格のヨルノズクから謝り、周りのヨルノズクたちも次々に謝った。
「どうしましょう、ミミロルさん」
「私は、ただ謝ってほしかっただけなんです。みなさんもそうでしょう? 食べ物をうばわれた。だけどそれは生きるためであって、いつも少しの量は残してくれた。 ここは許しましょう」
「そうですね。でも、もうこれ以上食べ物をとったりしたら許しませんよ。木の実がよくなる場所を僕は知っています。僕らじゃとどかない場所になる木の実をとるとよいでしょう」
「そうそう! はじめからこう言えばよかったんだ! 今度みんなでパーティやろうよ」
 子供のパチリスが言った。
「いいね! やろうか! ヨルノズクさんも……」
「本当に……ありがとうございます」

 地面をひたすら走る者。空に弧を描く者。
 朝活動する者。夜活動する者。
 この森に住むパチリス、ミミロルたちと、ヨルノズクたちは習性が正反対だ。
 それでもわかりあえたのだから、この森に再び霧がやってきたとしても、もう変な事件はおきないだろう。そう信じたい。