第15話 〜ひとりじゃない〜
「あなたたちは何者ですか」
「ただの探検隊だよ。ここって何かあるの?」
“ねっすいのどうくつ”の頂上までのぼりつめたテルたちは、見たこともないポケモンに出会った。
瞳を閉じていて、頭はメロンパンに似ている。額には赤いものが埋め込まれている。
「あなたたち、ここの秘密を知っているのではないですか? それで、探検隊だ、見せて欲しい、と演じているんでしょう。ここは見せられませんよ」
「そんなっ! おれたちは探検隊だっつの!」
「テル、キレないで」
謎のポケモンに襲い掛かろうとしたテルを、モモは止めた。
「どうしても見たいというのなら、バトルをしましょう。あなたたちが勝ったら……少しだけなら見せましょう」
「そーこなくちゃな! いくぞモモ」
「ううん。私ひとりでいくわ」
「へ?」
「洞窟を抜けてから、また元気になったの。だからテルは休んでて」
「う、うん……」
謎のポケモンとモモは向かい合った。テルははじっこへよけた。
「そちらからどうぞ」
モモは余裕の表情を浮かべる。これも作戦なのだろうか。
「それじゃ、遠慮なくいくよ、“ねんりき”!」
「きゃっ!」
ああ、言わんこっちゃないと、テルは思わず下を向いた。
「こっちも行くわよ! “たいあたり”!」
「わっ! ……今のは少しきいたね」
「次はこっちよ!」
モモは思いっきり走った。運動神経はそこらのゴンベと変わらない。テルよりはかなり遅いが、それでも速いほうだ。
「ま、待ちなさい! “ねんりき”!」
「そんなもの、当たらないわ!」
モモは少し楽しそうな表情さえ浮かべているようだった。テルはモモに見入った。
「ほら、こっちよ? コントロール悪いんじゃないの? それとも、ずーっとこのせっまい頂上にいたから、体力すりへっちゃった?」
「お、おまえ……」
謎のポケモンはモモに向かって猛スピードで飛んできた。
それをモモは表情ひとつ変えずに見た。
「あなた……ユクシーさんですよね?」
「驚いた。ぼくを知っているのか」
ユクシーと呼ばれたそのポケモンはあえぎながら言った。
「はい。出会ったひとの記憶を消すという」
「ええっ、じゃあ、おれたちも記憶が消え」
「じゃあ消してあげようか?」
ユクシーのまぶたがピクリと動いた。
「ま、待ってください。どうして記憶を消すのですか?」
「別に全ての記憶を消しているわけじゃないんだよ。ここに来たことを訪問者に忘れてもらうのさ」
「……やっぱりここ、何かあるんだな」
ユクシーの背後は闇につつまれている。何も見えない。
「で、でもそれじゃユクシーは」
端っこでずっとバトル……もといおいかけっこを見ていたテルが言った。
「……何ですか?」
「ひとりぼっち……」
「……!」
「テルッ!」
「いつまでもここにひとりで……せっかく会えたひとの記憶も消しちゃう……」
「……そうですね、所詮、私はひとりぼっちですよ。でもそれが何だというのです?」
「おれたちが友達になってやるよ」
「ふざけてるんですか? あなたたち」
「モモ、今だ」
「え、う、うん」
少々汚い手だというのはテルもモモもわかっている。だがユクシーを倒すには、動揺している今攻撃するしかない。
「たいあたりっ!」
「うわっ!」
「約束です。この先にあるものを見せてください。私たちも探検隊。何もなしで帰るわけにはいかないんです」
「……」
ユクシーは黙ったままだ。モモは優しい瞳でユクシーをじっと見た。
「あなたは、ひとりぼっちじゃ、ない」
「そんなことわかってますよ。テレパシー使えば、仲間と話せるわけですからね……」
「仲間いたんだ」
「怒りますよ?」
ずっと座っていたテルは立ち上がった。先にあるものを見る気まんまんだ。
ふと、背後から聞きなれた足音がきこえた。ぺたぺたぺた。これはおやかたさまの足音だ。
「お、おやかたさま!?」
「やあ♪ 他のみんなは疲れちゃったみたいだから、せめてぼくだけでも上にのぼってって、ぺラップに言われてきたんだ。で、きてみたら、
すごいじゃない! 君たちが頂上に先についたなんて」
プクリンは、いつも張り詰めた空気をやわらげてくれる。テルもモモも、にこりと笑った。
「そのひとは…?」
「ユクシー。おれたちの友達だよ」
「はい?」
「うわーそれはよかったね! 君たちが友達ってことは、ぼくにとっても友達だよね。ともだち、ともだちー♪」
「……」
「おやかたさまはこういうひとなのよ」
「……わかった。君たちにこの先を見せよう」
ユクシーはそう言って、“フラッシュ”を使った。
溢れんばかりの光が、テルたちの目にとびこんでくる。
「これは……」
「間欠泉。真ん中で輝いているのが<時の歯車>ですよ」
「ええっ!?」
「<時の歯車>。時間を守る大切な存在。あ、バルビートとイルミーゼが目覚めましたよ」
間欠泉から水が溢れ出て、バルビートとイルミーゼが光を出しながら、輝く歯車のまわりを気ままにとぶ。
「すごくきれいだ……」
バシャッ!
水がモモにかかった。途端にモモを目まいが襲う。
(こ、これは……!)
『なぜだ……なぜ……届かないのだ……!』
「……?」
「最近、<時の歯車>が盗まれていることは、おれたちも知ってる」
またモモとユクシーがバトルした場所に戻って、テルは言った。
「あなたたちなら信用できますね。よかったです。記憶は消さないでおきます」
「はじめ、見せて、なんて言ってごめん……。さすがにこれは見せられないよね、見ず知らずのひとには」
「まあ、結果的にはよかったのでしょう」
「うん♪ それじゃ下におりて、みんなでバッジ使って戻るよ♪」
「あ、“ねんりき”で送りますよ」
「ありがとう♪ またね!」
下におりると、ギルドの仲間たちがいた。テルたちが太陽の光をさえぎり、彼らは上からテルたちがおりてきていることに気がついた。
「あ、モモにテル!」
「おやかたさま、どうして……」
「どうしてって、テルとモモはちゃあんと上にいたんだよ♪」
「ほんと!? すごーい!」
それから、テルとモモは上で見たものを話した。ギルドメンバーにかなり羨ましがられた。またみんなで見にこよう、とプクリンが言った。
「それにしても、どうして疲れてたの?」
「それは……あれだろ」
「あれはすごい臭いだったんでゲスよ……」
ビッパがそう言って、皆はうなずいた。
「……?」
テルとモモは首をかしげた。ぺラップがおしゃべりを止めた。
「もう帰るよー! バッジ出して」
「はーい」