第3話 〜いせきのかけら〜

 ザザァーン。
 波は一時の絶え間もなく、こちらへ来たり向こうへ行ったりしている。綱引きをしているかのようだ。
「ここだよね? あんたが倒れてたとこ」
「うん、そう」
「何か思い出す?」
 テルは、砂と、足にあたると痛い貝と、どこまでも青い海を見つめた。だが、頭の中はからっぽだ。
「やっぱダメみたい」
「そう」
 モモは、さっきと比べて優しい口調になっていた。
「私もなの。ここにやってきたけど、どこから来たのかはわからない」
「うん。ベルさんに聞いた」
「で、私の場合手がかりが少しだけあるんだけど。見たい?」
 テルはモモがなぜ急にそんなことを言うのかはわからなかった。ひょっとして、見せたいのかもしれない。
「うん。見せて」
「これなの」
 モモがこちらに来る前に用意していたかばんの中から、白い石を出した。
「不思議な模様が描かれてるでしょ? 私は、<いせきのかけら>って呼んでる。私がここに来たときに、しっかりと抱きかかえられてたんだって。おやかたさまが言ってた」
「ふーん……。本当に、不思議な模様だね」
 唐草模様のようだが、そうではなかった。なにかが渦巻くような、なにかが今にも飛び出してきそうな、そんな模様だった。
「私の夢は、この石版の謎をとくことなの。あなたにだって、夢はあるんじゃない?」
「うーん……今はほとんど忘れちゃってるからわからないや」
 テルの頭の中で、モモの印象が少しだけよくなった。自分を呼ぶ言葉が、“あんた”から“あなた”になったことに気がついていた。
 テルはまた石版をの方に目をやった。同時に、物陰に潜むポケモンたちも、息をひそめながら、その石版を見ていた。
「お! あの石版は何だ? 何か凄そうだぞ!」
「そうだな! 盗むしかねえな!」

「それじゃ、帰……」
「ちょーっと待った!」
 ひょいっ! 茂みから急に出てきた二つの影が、モモの白い石をとりあげた。
「ちょっと、何するのよ!」
「もーらい! かえしてほしければ洞窟の奥に来ることだな!」
「待ちなさい!!」
 二つの影は、よく見るとドガースとズバットだった。ドガースたちは、“かいがんのどうくつ”に一目散に逃げていく。
 モモはそれを追いかけた。だが、すぐにテルの方を振り向いた。テルはついてきていない。
「ちょっと、何やってるの?」
「だって、怖いし」
「もおーっ!」
 モモはテルをずるずるひきずって、“かいがんのどうくつ”へ向かった。

 かいがんのどうくつは、なかなか涼しくて良い場所だった。ちょろちょろという水の音も聞こえてくる。
「あ、カラナクシだ! おーい!」
「な、何やってんのよ! あいつら敵なのよ!」
 カラナクシは、テルの声に気づいて、やってきた。そして攻撃をしてきた。
「わわ!」
「なわばりを荒らされたと思ってるのよ! たいあたり!」
「きゅうー!」
 カラナクシは倒れた。
「ふうー……。私あんまり暴力好きじゃないんだけれど……」
「……ごめん。で、攻撃ってどうやるの? なんかさっき、かっこよかった」
「そのうちわかるわよ!」

 かいがんのどうくつは、とにかく狭い。テルとモモは、すぐに奥にたどり着いた。
「こらー! その石をかえしなさーい!」
「かえすものなら、逃げたりしねーよ」
「きいっ!」
 モモはドガースにたいあたりした。
「ほらほら、こっちもいるぜー」
「きゃあっ!」
 はじめの勢いはなくなった。モモは、ドガースとズバットに交互に攻撃された。
(やっぱり無理だよ、2対1なんて……なんとかしなきゃ! 攻撃、攻撃……)
 ざしゅっ!
「モモをいじめるなー! 許さないぞ!」
「おや、さっきの腰抜け野郎! なんだ? やるのか?」
「えいっ!」
 ぜんぜん痛くないぞ、とドガースは言いかけた。だが、言うのをやめた。
 テルは、ひっかく攻撃ではなく、それと見せかけてドガースの持っていた石を取り返した。
 あとは、すたこらさっさと逃げるだけだ。
「覚えてろーー!」

「よかった、石ほとんど汚れてないよ」
「うん。さっきは……ありがと。そっけなくしててごめん」
「いいよ。確かに、急に流れてきた僕を警戒するのはあたりまえだと思うし」
「その……だから……」
 モモは下を向いた。
(ん? なんだろ?)
「いっしょに探検隊、やってくれない?」
 テルの目はぱっと輝いた。 「やる! やる! そしたらいろんなところに行けるから、僕たちがなんでここに来たのかとかわかるかもしれないしね! よーし! のってきたぞ、ギルドまでダッシュだ!」
「ちょっとー! 待ちなさいよー!」



「というわけで、僕たち探検隊組むことになりましたーっ!」
「そう、よかった♪ それじゃ、さっそくチーム名おしえてよ」
 ? テルは頭が真っ白になった。探検隊を組むには、チーム名がいる。あたりまえのことなのに、すっかり忘れていた。
「えーと、じゃあ、ここまでダッシュで来たからチーム『ダッシュ』で!」
「なに、その適当なネーミング!」
 今でもあえいでいるモモがいった。ヒコザルとゴンベでは、さすがに運動能力に差があるのだろうか。
「やっぱダメ?」
「……適当だけど、いいんじゃないの?」
「よし、それじゃまとまったね♪ チーム『ダッシュ』ここに誕生!」
 おやかたのプクリンが声をあげた。するとギルドのポケモンたちが拍手をした。
「それじゃ、これ!」
 テルたちは、探検隊バッジやトレジャーバッグなど、探検に必要なものをプクリンにもらった。
「よーし! 探検隊、がんばるぞー!」



「今日はいろいろあって疲れたよ」
 テルとモモはこれから同じ部屋で寝ることになった。なかなか居心地のいい部屋だ。
「うん、そうね、それじゃ、おやすみ」
 テルとモモはこれからは同じ探検隊ということで握手をしてから寝た。
 テルはその時不思議な感覚が走った気がしたが、眠たくなったためあまり気にせずすぐに寝た。
 満月の夜の日であった。