第5話 〜おたずねものとペンダント〜

「おたずねもの?」
「そうさ。最近は悪い奴がふえてなあ。そこのポスターにおたずねものがのっているよ」
 朝、テルたちはギルドのドゴームと話をしていた。
「誘拐したり、盗んだり、ほんとにひどいやつらでよお!」
「そう。世の中物騒ね。……そろそろトレジャータウンに行ってくる」
「いってらっさい」

「えーと……ここを歩くのははじめてかも……」
「ここはトレジャータウン。ここらで一番栄えている街。買い物したり、倉庫に道具をあずけたり、銀行にポケをあずけたりできるの」
 モモは、テルに店をひととおり説明した。店のポケモンたちは、皆愛想が良かった。
「どうしようかお兄ちゃん。お母さんの病気、何で治るんだろう」
「わからないなあ。どうしよう」
 カクレオンの店から、そんな声が聞こえてきた。
「うーん、普通の状態異常なら『いやしのタネ』で治るけど、それとはちがうんでしょ?」
「はい……」
 ルリリとマリルの兄弟が、カクレオンの店の前にいた。どうやら困っているようだ。
「ねえねえ、どうしたの?」
「お母さん、病気になっちゃったの。毒状態とかじゃないんだけど……」
「そっか。どうしようか……」
 今はトレジャーバッグに何も入っていない。
「私、治す方法知ってますよ」
 テルの背後から声が聞こえてきた。スリープだった。
「トゲトゲやまの頂上に万能薬になる草がありますから。連れて行ってあげよう」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」
 ルリリとマリルは、スリープの方にとんでいった。その時、ルリリのしっぽがテルにぶつかった。
「あ、ごめんなさい!」
 テルはその言葉を聞く余裕はなかった。急に頭がものすごい頭痛に襲われた。そして脳裏に何かが光った。

『さあ、ここに入るのだ!』
『た、助けてぇ!』

v 「……?」
「テル、どうかした?」
「いや、今……ルリリが何か言った?」
「ううん。言ってないわ」
 おかしいなあと思って、テルは首をかしげた。
「良いひとですね、スリープさんは。今は悪いひとがどんどん増えているというのに」
 カクレオン専門店の、紫のカクレオンが言った。
「……モモ、おれたちもトゲトゲやまへ行こう!」
「へ?」
「いいからはやく!」

(間違いない。さっきの『助けて』って声はルリリの声だ!)

 トゲトゲやまは、名前のとおりの場所であった。傾斜のきびしい山がみっつ、並んでいる。頂上を見ようとすると首が痛くなった。
 テルたちは、山をのぼりはじめた。
「ところで……どうして急にトゲトゲやまに行こうなんて言ったの?」
「話せば長くなりそうなんだけど」
「いいから」
 テルは、ルリリのしっぽがぶつかってふしぎな目まいに襲われたこと、そしてその瞬間脳裏に浮かんだ映像のことを話した。
「……ってことなんだけ……」
「テル!! それ、本当?」
 モモは、テルが言い終わる前に叫んだ。
「モモ?」
「ごめん。私も一度だけ、そういうことがあったから」
「え? モモも?」
「ここに来てすぐの頃。次第にそのことは忘れていったんだけど」
「どういう映像だったの?」
「声は聞こえなかったから、よくわからなかった」
 テルはびっくりした。モモも、同じようなことがあったなんて。
「でも……それが本当だとしたら、ルリリが危ないってこと……よね?」
「うん。スリープは一体何を考えてるんだろう」
 テルは急に、背中に悪寒を感じた。それはモモも同じだった。ふたりのあとを、ドードーとムックルがひそかに追っていたのだ。
「野生ポケモンだね……いけっ!」
 テルは『いしのつぶて』を投げた。ドードーとムックルはあまりひるんでいない。そして一気に『でんこうせっか』で攻撃してきた。
「ひゃっ!」
「たいあたり!」
 モモはたいあたりで攻撃したが、リーチに差があった。
「くうっ……!」
 さらに『でんこうせっか』で攻撃されたモモは、その場でひょろひょろと倒れた。
「モモ! これ!」
 テルはオレンの実を投げた。
「ありがと」
 モモは短く返事を返して、また攻撃をはじめた。
「よし!」
 モモのたいあたりで、ドードーが倒れた。
「おれの仲間に何するだー!」
 ムックルとドードーは、共闘体制ではなかったものの、仲間同士であったようだ。
「ひのこっ!」
 テルはムックルに『ひのこ』で攻撃した。ムックルはかなりうるさく鳴いていたが、それをくらうとムックルも倒れた。
「……ごめん。僕たち、どうしても上に行かなきゃならないんだ! オレンの実をおいていくね」



「さあ、あの岩の間に入るだけでいいんだよ」
「あの……草は?」
「そんなものないよ、さあ、ここに入るのだ!」
「た、助けてぇ!」
 ほんとうに目まいになった時と同じだ。テルは驚いた。自分には未来予知の力があったのか?
「こらー! スリープ! 何してるんだ!」
「ここまでついてきましたか」
「こうなると、テルに聞いたものでね」
 テルは一目散に走って、スリープに攻撃をした。
「えいっ!」
「くっ!」
 スリープは少しひるんだ。
「よし、ルリリ! こっちよ! テルは、スリープをおさえて!」
 モモはルリリを連れて走った。テルは、スリープをしっかりおさえた。
「あとはモモが何とかしてくれるだろう……」
「やっぱりお前たちでさえ、私の願いを叶えてはくれないのだな……」
「ん? 何か言った? ほら、ジバコイル保安官のおでましだよ!」
 モモがおそらく通報したのだろう。すごいスピードで、ジバコイル保安官がやってきた。
「タイホ! スリープヲタイホスル!」
 スリープは逮捕された。スリープは今までにも何度か悪事をはたらいたらしい。
 ジバコイルとコイル、それにスリープは去っていく。その時、岩場で何かが光った。
「ん?」
 そこは、ルリリが『入れ』と言われていた場所だった。テルはその場所に入ってみた。かなり狭い。上の岩がくずれたら、首が抜けなくなって窒息してしまうだろう。
「こんなところに入れなんて言われたら、そりゃ怖いだろうね……ん? さっき光ってたのはこれ?」
 テルは手探りで、なにか冷たくて堅いチェーンのようなものを見つけた。
「これは……!」



 ジバコイル保安官とスリープは、そろそろ山のふもとにつくころだ。テルは、ジバコイルたちを必死で追いかけていた。
「スリープ! これっ!」
 テルはスリープに、岩場で拾ったものを投げた。
「おっと」
 スリープはそれを受け取った。
「おまえ……拾ってくれたのか?」
 テルが拾ったものはペンダントだった。中にスリープの母らしいひとの写真が入っている。
「お母さん……あそこで亡くなられたの?」
「……ああ」
「これだけは、どうしても取り戻したかったんだね?」
「……ああ」
「で、君は体が大きめだから、体の小さいポケモンに取ってもらおうとだましてたんだね?」
「……誰も協力なんてしてくれないと思ったから……」
 テルはため息をついた。そしてにこりと笑った。
「大丈夫だよ。たしかにこの世界には悪いひとが増えてるって聞くけど、それでもまだまだいいひとのほうが多いんだから。
今度こんなことがあったら、だますんじゃなくて、普通に頼んでみなよ。牢屋から出たらね。約束だよ!」
 スリープは返事はしなかったが、うなずいた。そしてペンダントをかけた。



「テル……遅かったじゃない。何してたの?」
「いや、なんか……家族ってひとの運命を左右するんだなって。優しくもなれて、怖くもなれて……僕の家族って、どんなひとだったんだろうね」
「……?」

 今日の夜もまた満月であった。テルは、この世界は毎晩満月なんだな、と思って、勝手に納得していた。