第7話 〜リンゴのもり〜

 その日もまた晴れの日であった。
 太陽みたいな子供になってほしいという意味で名づけられたテルは、トレジャータウンに晴れの日が続いて喜んでいる。
 尤も、テルは自分の名前の由来は忘れているが。
 今日も平和な一日が過ぎるのかと思いきや、テルとモモはぺラップにたたきおこされた。
「今日は君たちに大至急お願いがあるのだ」
「何?」
「そ、その……おやかたさまがいつも召し上がっているリンゴ“セカイイチ”を切らしてしまって……」
 ぺラップはひそひそ声で話した。
「“リンゴのもり”というところまで取ってきてほしいんだよ」
「リンゴのもり?」
「そう。ここから北東に向かっていけばある。近くに“オレンのもり”もあるから、間違えないように。その森の一番奥に、セカイイチのなる木があるから」
「それを取れば良いのですね? わかりました」
 テルたちは広間に行って、ギルドのメンバーでいつもの朝の会をした。
 いつもだと「おーっ!」で朝の会は終わりなのだが、プクリンが連絡することがあると言って、朝の会はつづいた。
「まず、ギルドに新しい仲間がやってきました♪」
「えーっ?」
「でも、後輩というわけではないよ。もうすぐ遠征があるから、助っ人として来てもらったんだ」
「遠征?」
 テルはモモにひそひそ声で訊いた。
「毎年この季節にやってるらしいの。おやかたさまが優秀だと認めたポケモンを選んで行くの」
「そうなんだ」
「来てもらったのは、チーム・ドクローズのみんなだよ♪」
 広間にドクローズのメンバーがおりてきた。皆拍手をした。だが、テルとモモはぼうぜんと突っ立っていた。
「ん? テル、モモ、どうしたの?」
「あ、いやなんでも」
(あいつらって、モモの持っていた<いせきのかけら>を盗んだ奴じゃないか!)
「あと、ふたつめの連絡は……この前、“キザキのもり”で<時の歯車>が盗まれたらしい」
「えーっ? <時の歯車>って、この世界の時間を守るっていう、あれですの? きゃー! そんなものが盗まれてしまったら……」
「キマワリ、よく知ってるね。そのとおりだよ。それが盗まれたってことは」
「キザキの森の、時は止まった……」
 いつも明るいプクリンも下を向いた。テルはよくわからなかったが、<時の歯車>が盗まれたっていうのはとにかく大事件なんだな、と思った。
「よし♪ それじゃ、次の情報を待とう!」
「ちょっと待ってくださいよ、おやかたさま! そんなのんきなことを言っていていいのですか?」
「うーん、でも今は犯人の情報とかもないと捕まえることはできないし」
「……」
「とにかく、今日も仕事にかかるよ♪」



「モモ、いろいろと訊きたいことが」
「そうくると思った。遠征のこと、<時の歯車>のこととかよね?」
「そうなんだ。一体何なんだ?」
「遠征はさっき言ったとおりよ。おやかたさまがメンバーを選ぶのも、時間の問題だと思うわ」
 私は行ったことないけど、とモモは心の中でつぶやいた。
「遠征のメンバーになりたいなら、今回の仕事は絶対に成功させなきゃ。直前の仕事っぷりが一番評価されるから」
「そうなのか……でも、遠征って楽しそう。がんばるぞー!」
「うん」
 “リンゴのもり”が見えてきた。なるほど、確かにぺラップが言っていたように、隣に“オレンのもり”がある。
「もうひとつは……<時の歯車>」
「キマワリが言ってたとおりのものよ。この大陸に各地にあって、時間を刻んでいるものよ」
「刻む……?」
「そうよ。それが盗まれたら、その土地の時は止まる」
「ええっ!? それって大変じゃん!」
 テルは仰天した。時って、動くものなのか? 止まるものなのか?
「そう。今頃キザキの森は」

 森のささやきは消え、花がゆれることもなく。
 葉っぱから落ちるはずの雫は、空中で止まる。

 テルはぞっとした。
「さらに、時が止まれば、色もなくなるんだって。なくなるっていうより、白黒になる……というか」
「モモ、それをどこで知ったの?」
「この土地の神話の本で」
 モモは読書が好きであった。

「ほら、リンゴの森が見えてきたよ」
「よーし、ダッシュだ!」
「もー、それはしんどいって言ってるでしょー!」