深雪がもたらす出逢い


 テンガン山を北西に抜ければ、そこには銀一色の世界が広がっている。視界もまともに効かないその場所には、人、ポケモン、それらを超えた存在がはびこっているという。
 僕は、そこに手袋も用意せず入ってきた自分の下準備の足りなさをまず後悔した。今イーブイをボールから出せば、その暖かさに癒されるだろう。だが、そんなことをすれば確実にイーブイは嫌がる。
 だから、いつものように一人で歩く。手はとりあえずポケットに突っこんでおいた。
 吹雪が視界を遮るからだろうか、トレーナーを見かけてもバトルを仕掛けてはこなかった。そちらのほうが好都合だった。なんせ、こんな場所はやく抜けてしまいたい。

 途中、雪がかなり深く積もった場所があった。一歩踏み入れると、ずぶずぶと足をとられる。だが、他に迂回できるような道もない。
 なんとか足をあげ、歩みを進める。それでも途中できつくなって、力尽きそうになる。
 イーブイ、お前だけは。と思い、ボールのスイッチを押したところまでは覚えているのだが、それから先はただただ冷たい空間に追いやられるだけだった。

(はやく子供にごはんを)
 次に聞こえたのはそんな声だった。
(ごはん……)
 その時、ずるると自分を引っ張るものがあった。硬い。
 やめろよ、と僕がつかみ返すと、それは細くて硬いものだった。
「骨!?」
 なんの骨だったかまではわからなかったが、少なくとも人間のものではない、こんな状況にありながらなぜか研ぎ澄まされた感覚がそう訴えていた。
「ポケモン……?」
 骨といって思い出すポケモンといえば、孤独ポケモンのカラカラがいる。だが、カラカラなんてこんな場所にいるわけがないし。
 色々思いをめぐらすたびに悲しくなって、僕は言った。
「僕はまずいからね、ごはんにはならないよ」
(えっ)
 また声が聞こえてきた。こんな風に声が聞こえるんだから、生きたポケモンであるはずがなかった。
「君は」
「ファーン!」
 透明感のある鳴き声がすべてを吹き飛ばし、そのものと意思疎通もできなくなった。

 気が付いた時には、僕は降雪の浅い場所に寝転んでいた。水色のポケモンが、耳元についた飾りのようなものをだらりと垂らし、僕を見下ろしている。
「イ、イーブイ!? 進化したのか」
「ファン!」
 僕の自慢のイーブイは、深雪ポケモン、グレイシアに進化していた。シンオウのどこかに、イーブイがグレイシアに進化できる場所があるとは聞いていたが、確かにここはうってつけの場所かもしれない。
 グレイシアは一瞬、安堵の表情を見せ、それから僕の右腕に視線を移した。
「あれ。……骨?」
 僕の右腕には、さきほどの細い細い骨があった。
「これ……きれいにして川に流してあげないとね。子供のもとにいけるように」
 そして、また生まれ変われるように。
 キッサキシティまでは、もうすぐであった。


即興二次小説より。お題:寒い境界