+ 黒と白、ちょっとだけ赤 +


「あなたは、あたしが投げたボールに入ってくれた。それはどうして?」
「……」
 ある日の夜明け前。
 その、夜しか外に出さないポケモン、ダークライが答えないということは、もう知ってる。
 でも、あたしが今までに手持ちにしたポケモンの中で、それを一番知りたかったのだ。

 “満月島”の対となる島、“新月島”の存在は、あたし以外は知らない。
 もう、あたしがその島に行く手段もない。
 だから、ダークライがあたしの投げたボールに入ったということは、故郷を捨てることを意味していた。

 あの、夢なんだか現実なんだか判別のつかない世界で、あたしたちは出会った。
 どうせ夢だから、とあたしはゴウカザルで戦って、遊び半分でプレミアボールを投げた。
 それで捕まっちゃうと、やっぱり夢だって思って、そこで目が覚めた。
 目が覚めたあたしの手には、ダークライの入ったプレミアボールがしっかりと握り締められていたのだ。
 あのポケモンにこの真っ白なボールは、少し不似合いだと思った。

「あたしがもう“新月島”に行けないって、知らなかった?」
 どうせ答えには期待していなかったから、プレミアボールをそっと差し出した。
「うーん、いいや。そろそろ朝になるわ。ほら、太陽が。だから、もうボールに戻って」
 そう言うと、ダークライはあたしがボールのスイッチを押す前に、私に抱きついてきた。
 街灯に見つかったプレミアボールが、きらりと光った。

 闇の、光。
 光の、闇。
 きっと、お互い依存していたいだけ。
 どちらに居続けても、疲れちゃうから。
 結局、あたしがこのポケモンと一緒にいるのもきっとそういう理由からなんだけど、それはダークライにとっても同じかしら?

「ダークライ、力強いよ。あたし、腰折れちゃうよ。もうボールに戻りなよ」
 あたしは笑って、ボールの開閉スイッチを押す。ダークライはおとなしく、ボールに入った。

 悪夢と、楽しい夢が混じり合って、このポケモンを捕まえてから、夢の世界がごちゃまぜになった。
 でも、それでもいいの。きっとあなたもそうでしょう?
 あたしたちだけが味わえる、不思議な快感。
 だから、他の人には見せちゃダメ。

 それでも、切り札としていつも傍に。卑怯かしら?