はじめて、ここがいい、と思った


 気が付いたらどこか知らないところへ着地してしまっている、そんなことが多い。
 これは、どうも僕だけじゃなくて、ハネッコというポケモンであれば誰でもそうなってしまうらしい。
 僕がもーっと小さかった頃はいつも仲間がいて、風がびゅうっと吹けば飛ばされちゃって、着いたところでは必ず仲間が減っていて。
 いっつも新しい土地へ行ってしまったけど、ある日、同じところで暮らし続けることになった。

「ねぇ大丈夫? 今日、風強いよね」
 僕を捕まえてそう話しかけたのは、なんとニンゲンだった。
 僕がその時、突然やってきた強風に苦しんでいたのは確かだ。いつもはふわふわ風に乗って夢心地なのに、その日はそうはいかなかった。
「おいらんちにおいでよ。あったかいよ」

 そんなわけで、ニンゲンの家にお邪魔することになった。
 その家には火がついていた。僕が怖がっていると、これは暖炉といって、近づくだけならとてもあったかいんだ、とニンゲンが説明し、そっとそれに手をかざした。
 僕も同じようにしてみると、本当にあったかかった。

 そのニンゲンは、冒険の旅への夢を語った。
 いろんな土地を巡っていろんな人やポケモンに出会って、と言うけれど、旅なんて意識せずとも、風に乗ればいろんなところに行けるのではないか、と、僕がハネッコで彼がニンゲンであることを忘れて考えていた。

 それでも、話を聞いていれば、彼のいう「冒険の旅」というのが、とても素敵なものに思えてきて。
 ニンゲンの夢の手伝いといえば、かつての仲間に笑われてしまうかもしれない。だけど、僕が強くなれば彼が旅に出られるのではないか、と思えて、僕は彼とポケモンバトルの練習をはじめた。

 だけど、彼との別れは突然に訪れた。
 いや、僕にとっては突然ではなかった。今までと同じく、風が吹いて、飛ばされた。ただそれだけのことだ。
「ポポッコ、ポポッコーー!!」
 ニンゲンの、彼の声が遠くで進化した僕の名前を呼ぶ。雨と風が、その声すらも僕に届かないものとしてしまった。

 すっかり空も晴れた頃、僕はふっと気が付いた。
 着地したところは、もちろん知らない土地だった。
「大丈夫? あっちのほうで嵐があったの?」
 傷と泥にまみれた僕に声をかけたのは、見た目はお母さんを、声色はあのニンゲンを思い起こすポケモンだった。
「大丈夫だよ」
「そう……。あなた、別れちゃった私の子供にそっくりで……まあ、ワタッコとポポッコなんだから、当然よね」
 そう言って、ワタッコはそのやわらかい綿ほうしで僕の身体についた泥をはらい、そよ風が来ると地面を蹴って飛んで行った。
 綿ほうしを巧みにあやつって、高く、高くのぼっていくさまを見て、僕は決心した。

 ワタッコになろう。
 そして、綿ほうしを使って、彼のもとに帰ろう、と。
 今まで、どこか特定の場所、特定のひとのもとにいたい、なんて考えたことがなかった。
 でも、僕は、また彼に会いたくって、たまらなかった。

 自分で考えてバトルするのは難しい。彼の指示がいかに的確だったか、野生に戻って身に染みる。
 でも、これさえ乗り越えられたら……

「ワタッ!」
「え、ポポ……ワタッコ!?」

 新しい旅のはじまりだから。

120923