+ サンドバック +


 あたしの実力があれば、スーパーシングルトレインの49戦目なんてあっという間だ。
 今欲しいは、スーパーダブルトレインの49戦目への切符だけど、これがどうにも勝ち抜けない上に、クダリさんに会えたところでバトルに勝てない。
 だから、腹いせにシングルをやってるわけなんだけど。

「ノボリさんっ! あたしよ! 覚えてる?」
「あぁ、今日はやけに車両が揺れるかと思いきや、トウコさん、あなたさまですか」
「揺れるってどういうことよそれ!」
「……本日は、バトルサブウェイ、ご乗車ありがとうございま」
「もうそれいいから!」
 ノボリさんが言い終わる前に、あたしはガブリアスを繰り出した。対するノボリさんのポケモンはオノノクス。まずもらった、と思った。

「はいっ勝利!」
「お強いですねぇ」
「あったりまえじゃない! あなたのパーティは熟知してるわ。ドリュウズさえ、あたしのゲンガーちゃんで流せれば勝てる」
 ノボリは三番目に出したシャンデラに、また頼みますよ、今はゆっくり休んでくださいと囁いて、ボールに戻した。
「その調子でクダリにも勝てるようになるといいんですけどねぇ」
「そうなのよねー……って、何であんたが知ってんの! あたしがクダリさんに勝ててないってこと」
「全てクダリに聞いてますよ。まぁ、あなたさまのポケモンはシングルバトル向きですし、今のままじゃまた挑んでも勝てないとは思いますけどね」
「ひどーい!」
 そうは言ったものの、確かにあたしは、ダブルバトルのためのメンバー編成や技構成が苦手だ。闇雲にトレインに飛び込んだって勝ち目がないことくらい、自分が一番わかっている。
「いいもん! 次は絶対勝ってやるから! またスーパーダブルトレイン挑戦するし!」
 そう言うと、ノボリさんはため息をついた。
「困ったお子さんですねぇ」
「お子さんって……」
 ノボリさんは、しばらく間を置いてから、少しこちらに近づいてきた。そこであたしは、改めて彼の身長の高さを実感する。
「クダリに勝てないのなら、私のところにだけ来てくださればいいものを」
「んなっ……」
 予想外の言葉に、あたしは思わず目をそらす。
「あ、あんたはそれでいいの? あたし勝ちパターン知ってんだから、毎回ボッコボコにしてやるわよ!」
「それでいいじゃないですか。バトルポイントだって溜まりますし。おっと、そろそろ時間が押していますね。……ブラボー!! あなたさまは、その実力で勝利という目的地に」
「聞き飽きたって!」
 電車の到着と同時に、あたしはすぐに下車した。

 ただの自意識過剰なのかもしれない。でも。
 たまに、ノボリさんは、あたしがすごく求めている言葉をわかっているようで、何だか悔しい。
 バトルには勝ってるのに、あたしが負けた気分だ。
「……ともあれ! あたしのスーパーダブルトレイン49戦目勝利の夢はまだ達成されてないのよ! 皆で頑張ろう!」
 あたしはモンスターボールのポケモンたちに向かって叫んだ。
 それでもし勝てなかったら、ノボリさんをサンドバックにしよう、と心の中で付け足した。