「ラウンドレールで、五駅先のところ。えーと切符は……290円」
アールが路線図を指して言った。チエは<オンダデスク>の券売アプリを開き、子供料金のボタンをタッチした。
「あー、そうか。子供料金だと150円なのね。いいなーあたしもそうできないかなー」
「アールさん大人っぽいですからちょっと無理ですよ」
「そうなのよねー」
アールも切符を買い、ホームに来ていたムービングチューブに乗った。
円形のチューブの天井についた電線にぶらさがったムービングチューブが、なめらかに進む。あらゆるところのデザインに円が使われているというのが、ラウンドレールと名のついた所以だった。
短距離用の柔らかい椅子に腰かけ、出発を待つ。もう夜も遅いためか、照明は少しゆるめだった。
チエは、まだ見ぬ<外の世界>に思いを馳せれば、普段は寝ている時間でも目はさえていた。
普段は近距離に感じても、この時だけは五駅分が果てしなく長く思えた。
チエはアールの後ろについて、下車する。<オンダデスク>の画面を出口でかざせば、自動改札が開いた。
改札から出ようとしたその時、とん、と誰かがチエの肩に手を置いた。
チエは<オンダデスク>を胸に寄せて振り向くと、そこには同じ部の同級生がいた。
「ヒカルにっ……バイオ!?」
「こんばんわっ、アールさん。やっほーチエ」
ヒカルとバイオの二人も、<オンダデスク>の画面をかざす。改札は三人が通り過ぎるまで閉まらなかった。
なぜここに、と切り出したのは、肩に重荷をぶら下げたような姿勢をしたチエだった。
ヒカルとバイオの話によれば、放課後のアールとチエの会話を聞いており、アールの大発見なるものを自分たちも見たかった、というものであった。
「あのさぁ、なんで私だけ誘われたかって、わかんないの?」
「一度見ておく必要があると思って。チエがアプリ部をさぼるほどに惹かれているそれを」
ヒカルはいつになく真剣な表情になって言う。
「まあ、俺たちは一度見れば納得するだろうってさ。一度見ておけば、お前にもくっだらねーことしてんじゃねぇ、って、部活に来させることができるだろ」
「バイオ……その言い方はひどいんじゃないの……」
話を聞いていたアールが言った。
「そうでしたね、アールさんも<外の世界>にご興味を……でも、アールさんは恒常的に部活をさぼることはしない。あまりにチエが来ないと、同級生の僕らとしては心配にもなります」
正論を言われ、チエはぐっと口をつぐんだ。
「アールさん、私たちもついて行っていいですか? 一度、一度見れば納得します」
「……わかったわ。ただし、ついて来るってことは、あんたたちも<外の世界>に興味を持つ可能性が、少なからずあるわよ」
アールはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
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