久しぶりのナズワタリ地方の澄んだ空気に、ユキエは心がはずんだ。
ポケモンレンジャー・ユキエは、ポケモンレンジャーを志しアルミア地方に行って、そのままアルミア地方でレンジャーとしての任務に従事したのち、故郷ナズワタリ地方に配属されることとなった。
ユキエ自身は、レンジャーユニオンのシンバラ教授からは、詳しい話は聞いていない。だが、行けばすぐにわかるということで、はるばる鉄道を利用して帰ってきたのだ。
ナズワタリ地方東部の中心地、ガルーダシティは、今日もナズワタリ地方なりに栄えていた。
ナズワタリ地方は、ポケモンレンジャーの活動が活発な、アルミア地方やフィオレ地方、さらにはオブリビア地方に比べても、人は少なく、北部はツンドラの、田舎の地方である。
それでも、ここの空気の美味しさを知っているユキエにとっては、ここが一番居心地のよい場所だった。
シンバラ教授には、せっかくだから家族に挨拶もしてきなさいと言われたが、ユキエは、言われなくてもするつもりだった。
故郷リルむらはここから東に行ったところだ。ユキエは早速、“リルむらへの道”を進もうとした。
その時、空が急に曇り始め、ポケモンが落ちてきた。
バルチャイだ。飛べないといわれているバルチャイでも、練習をくりかえせば飛べるようになるのだ。
「えっ、どうしたの?」
ユキエは思わず駆け寄った。バルチャイは何がどうなったのかわからない、という様子だ。
「混乱してるの……ここは一旦キャプチャね!」
ユキエは、右腕についた“キャプチャ・スタイラー”を起動し、キャプチャ・ディスクでバルチャイをぐるりと囲んだ。
「そのまま、動くんじゃないよ……よし、キャプチャ完了!」
キャプチャとは、レンジャーと野生のポケモンが心を通わせることをいう。
キャプチャされたポケモンは、他のポケモンをキャプチャする時や、道に障害物があって進めない時などに、レンジャーに力を貸す。
その後は、野生にかえる。これを“リリース”というのだ。
ポケモンレンジャーは、キャプチャとリリースをくりかえして、日々活動に明け暮れている。
「ギャァ、ガァ!」
「大丈夫、落ち着いて。どうしたの? 飛ぶ練習してて落ちちゃったの?」
「ガァ……」
バルチャイは、そうじゃないよ、と言うように顔を曇らせた。
その時、上空から人が現れた。
「まったくよぉー、レンジャーのねぇちゃん、余計なことしやがって!」
「あなたは……?」
「知らないのかよ! 誰もが憧れる、ボムボム団……じゃなくてボマーズだ! 今回のオレたちの仕事はぁー、一時的に空をめちゃくちゃ汚くして、落ちてきたポケモンたちを根こそぎゲット! これだ!」
「何それ、絶対許さないわよ!」
「生意気な口がたたけるのも、ここまでだよん!」
ボムボム団とかボマーズとか名乗った男性は、手持ちのリモコンを動かして、気性の荒いポケモンたちをどこからか呼んできた。
ミネズミが、六匹。ユキエにとっては、一度に相手にしたことがない数だった。
キャプチャ・スタイラーに手をかけ、もう一度ディスクを発射させる。
一匹、二匹。ミネズミ自体はそれほどやっかいではない。
もうひとつ、同じ型のディスクがユキエの視界をよぎった。
「大丈夫か? オレも手伝うよ! こっち三匹!」
声の主は、ユキエと同じ歳くらいのポケモンレンジャーだった。制服も似ている。
その少年の助けもあって、ミネズミ三匹ずつ、六匹のキャプチャを完了させた。
「そっ、そんなまさか!? 幹部に報告だー!」
ボムボム団とかボマーズとか名乗った男性は、そのまま逃げていった。
ユキエは少年のもとに駆け寄った。
「ありがとう、助かったよ」
「なに言ってんだよ。レンジャー同士だろ? オレも、空からワシボンが落ちてきてるの見て、それからもう一羽、バルチャイが落ちてきた方を見てみたら、君たちを見つけて……」
その話を聞いて、ユキエは空を見上げた。少年も見上げる。
怪しい雲は、もうすっかり消えていた。
「君はナズワタリ地方のレンジャーかい?」
「えーと、うん、そう! というよりも、今日からここで活動することになって……もとはアルミア地方にいたんだけど」
「そうなの? 奇遇だな! オレもずっとフィオレ地方で活動してたんだけど、今日からナズワタリで活動なんだ。故郷のナガタウンに戻るところさ」
「ナズワタリが故郷ってことも同じなのね。すっごい偶然! ……ってわけでもないよね。きっとシンバラ教授が、同世代の私たちをここに配属したんだろうし。私ユキエ! あなたは?」
「オレはカンタ! そんじゃ、また会おうぜ!」
カンタの故郷ナガタウンは、ここから西。リルむらとは逆方向だ。
ユキエとカンタは、バルチャイとワシボンをリリースして、故郷への道を急いだ。
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