人やポケモンが通ってできた道を南西に向かって進む。
ぼんぐりの森は、大陸南部を縦に走る小さな山脈を越えたところにある。
ここでぼんぐりを採って、ここから少し東に行ったところにある村に売るのだ。
普段、ステラは、ぼんぐりを“地図にない町”まで持っていって高く売るのだが、今回は冒険の旅だ。いつもより少し安く売ることになるが、それでいい。
いろとりどりの実がおいしげる森に足を踏み入れる。
中にはちょこちょこ動くぼんぐりがある。マダツボミやロコンたちがぼんぐりを抱えたり、転がしたりして運んでいるのだ。
「マダツボミ、ひとつおくれよ」
「ツボツボッ!」
気前のいいマダツボミは、ぼんぐりをひとつ、ステラに差し出す。
「いいやつだなー。前来た時に頼んだやつは、くれなかったぞ」
ステラはそう言いながら、身をかがめてぼんぐりを拾う。
その間にマダツボミは去っていったが、そのすぐ後に乾いた音があたりに響いた。
「あちゃー。親分にムチでもくらったかな。すまねぇことしたな」
ステラは、できるだけエイパムのいない木を探して、そこでぼんぐりを採ることにした。
各色十個。これでまとまった旅費にはなるだろう。
使い古した袋に、ステラは色別に入れていった。
「あ、人! ねぇ、あなた、このあたりに住んでいらっしゃるの?」
正面から少女の声がした。状況からして、自分に話しかけているとしか思えない。
「ああ、オイラはもうちょっと東。“地図にない町”。わかる?」
「え、ええ。でも、ぼんぐりのことは知ってそうね。お願い! 私のブルーを診てくださらない?」
少女は、木陰で唸っているブルーのもとへ、ステラを連れた。
「随分苦しそうだな。毒浴びちまったのかも……」
「え、いつのまに……? わたくしはブルーにぼんぐりをあげただけですのに」
「んー、ここのマダツボミが、天敵であるロコンやウソッキーをけん制するワナとして、毒の汁のついたぼんぐりをばらまくことがあってさ。それかもな」
「お腹がすいてたみたいだったから……どうしたらいいのかしら?」
「しょうがない」
ステラは、リュックからオレンジの縞模様の実を取り出した。
「ほーらブルー、あーん……」
「ガウ……」
ブルーは、必要最低限の動きで、その実に食いついてみせた。
「ガウ……? ガウウ!」
「ルー! 大丈夫?」
「ガウ!」
ブルーは、少女に抱きついた。
「そのブルー、ルーっていうのか! よかったな! じゃ、オイラはこれで」
「あ、ちょっと待って!」
少女は、リュックと十の袋を抱えるステラを呼び止めた。
「わたくし、ここが待ち合わせ場所なんだけど、しばらく退屈なの。少しお話していきましょうよ」
「は、はぁ……」
「わたくし、エーデルワイス・ドレイデンと申します。お気軽にエデルと呼んでくださいね。……あなたは?」
「……ステラ」
ステラは、はじめてその少女を落ち着いて見つめ、その育ちのよさそうないでたちに、どこか自分のつりあわなさを感じた。
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