ポケットモンスターeco 1話
- 2016/06/05(Sun)
これで全員か、と新チャンピオンは言った。
新体制に移行しようが、四天王は四人体制。昔からの人もなんだかんだ新チャンピオンの方針と強さを認め、協力すると言ってくれた。
菜園が好きで緑を増やす活動を主に行うトリナ、身長169センチ。
この地方の景観を良くすれば観光客も増えるだろう、と意気込むギボウシ、身長179センチ。
氷の美しさに目がないアネモネ、身長180センチ。
彼女と反対に美しい炎を見て悦に浸るレンジア、身長185センチ。
「そして俺、チャンピオンのクリーン。悪くないメンバーだな」
「この中だとクリーンくんは一番背が低いですね」
「それは言うな」
トリナに言われ思わずクリーンは突っかかる。しかし、他の三人のニコニコ笑顔が妙に刺さり、彼はひとつ咳払いをした。
「とにかく! ポケモンリーグ連盟に認められるには、個人々々のバトルのスキルアップも大事だが、ここショウエネ地方の環境を良くすることも大事だ! ゴミは見た瞬間ゴミ箱へ、土壌の流れた場所は再び緑化、反対する連中には力で示す! いいな」
「らじゃっ」
かくして、かつて文明の十字路として栄えたショウエネ地方は新たな舵を切った。
なにもこれはポケモンリーグだけの話でなく、地域のジムや地方民たちも同じである。
ポケットモンスター eco
ショウエネ地方南部の田舎、レイラタウンの小学校でも、十歳を迎えて卒業し、ポケモンを究める旅に出る子供は多かった。
しかし、この町立小学校では、もう一つの選択肢がある。少年リトと少女ミカはそれを狙って五年生に進級し、実際それは叶うこととなった。
「ショウエネ地方の環境調査、今年はキミたちに決まったよ!」
二人の担任兼美化委員会顧問のソウジ先生は、勢いよく二人に伝える。
「やったー!」
「ま、当然よね」
ショウエネ地方の環境調査。
それは、美化委員に所属する五年生のうち一人から三人が、学校の支援でショウエネ地方を旅できるシステムだった。宿代は半額以下になるし、環境調査さえしっかりしていれば、ジムなどの施設に挑戦してまわるのも自由だ。
「座学と美化委員での活動が評価されたんだよ」
「でも、この年にソウジ先生が担任になってくれたのが一番です。ありがとうございます」
「そんな。これから大変だぞー」
「はい」
その日から準備が始まった。
まずは、学校で飼っているチラーミィたちからパートナーを選ぶところからだ。
「はーい、リトさんミカさんと冒険したい子!」
ソウジ先生が呼びかけると、一匹のチラーミィが、手を高く挙げた。
「ちゅっちゅー!」
「はい決まり。確か去年はあぶれてしまったからね。おいで」
チラーミィはぐふふ、と笑い、三人のもとへ駆け寄った。
「この子、元気でかーわいいー! ねえリト、この子私のパートナーにしていい?」
「……どうぞ」
「やったー!」
ミカはチラーミィを抱きかかえ、よろしく、と笑った。
「えーと、それじゃあ、リトさんのパートナーになりたい子は……」
リトのつばを呑む音が聞こえるほどに、場は沈黙していた。なにせ、全てのポケモンがトレーナーの指示のもとでバトルを好んでいるわけではない。
「あ、あの子! ……今手下げたけど確かに挙げてたよ」
ミカが指したチラーミィをリトも見る。しかし、そのチラーミィはそっぽを向いてしまった。
そしてまた、ゆっくりと手を挙げる。
「はは、シャイな子なのかな?」
「なんか睨まれてるんですけど」
そう言いつつも、リトはそのチラーミィのもとに駆け寄る。じとーっと見てくるそのポケモンに、リトは手を差し伸べた。
「ジト目のチラーミィ、ボクと旅するかい?」
「……みっ」
チラーミィは、やや投げやりに手を乗せた。
「してやってもいいけど、って感じだねー!」
「きっと二人とも、すぐに仲良くなれるよ」
「……はい。よろしくね、チラーミィ」
「みー……」
ソウジ先生に貰ったモンスターボールを投げ、チラーミィの家をつくる。
チラーミィの収まったボールを拾って、二人は感慨深げにぴかぴかのボールを見つめた。
その日から約一週間、リトとミカはチラーミィとともに過ごした。
旅立ちの日には、ポケモンについて書く欄もある環境調査ノートと、トレーナーカード――無論どちらとも100パーセント再生紙だ――を渡され、ソウジ先生から激励の言葉を貰った。
「私はチャンピオンのこともよく知ってるんだけど」
「えっ、チャンピオン!?」
「うん。ショウエネはきっと変わる。このチューリップ畑しかないような町にリトさんもミカさんもずっといたんだ、正直、旅先で戸惑うこともあるだろう。でも、君たちは学校が認めた優秀な児童なんだ。迷ってもいい、ただ美化委員として、ショウエネ地方はこれからどうあるべきかを考えるんだ。ポケモンたちもきっと助けてくれる」
「ちゅー!」
「みー」
ソウジ先生の言葉に応えるように、チラーミィたちが鳴いた。
「わかりました」
「いってきます!」
先生たちや友人に見送られ、二人と二匹はレイラタウンを出た。これから二人は、故郷ショウエネ地方の現状を嫌というほど知ることとなるが、それはまた次からの話である。
サミナの話を練ろうの会(2)
- 2016/06/10(Fri)
同志って、と尋ねる前に、サミナは突如現れた男の顔立ちを見つめた。そして悟った。
「――サクハ地方砂の民」
「自分のルーツすら言えないやつにも会ったけど、お前はそうではないみたいだな」
お互いに冷静を装っているが、それぞれに焦りが滲み出る。
「ねえ、それって、私以外にも「砂の民」に会ったってこと?」
「俺は今でもサクハ地方クオン遺跡が実家だ。今はこうして旅してるけどな……全世界に散った「砂の民」をクオンに呼び戻すために」
「どうしてそんなことを」
「決まってるだろ。俺たちは虐げられてきた民族だ。その証拠に、お前の曽祖父母のように、故郷を追われた人やポケモンだっている。サクハが統一された今、今こそが、見返してやるときなんだよ」
デイジは、それまでサミナが真っ直ぐ触れようとしなかった自民族の歴史と今を一気に話した。
民族衣装はとうにやめ、人工島ヘキサシティに居を構えたサミナとて、自身の白い髪、赤茶色の目、そして褐色の肌を見ると、なんとなく後ろめたさはあった。
「砂の民」の血は四分の一しか入っていないというのに、とにかく外見に反映されるぶんが強すぎるのだ。
「仲間も動き始めてる。世界を周って強さを身に着けたり、サクハの上層部にありとあらゆるコネを使って働きかけたり……まああいつのやってることは俺もよくわかんねえけど。それで、何人かは、サクハへの帰郷を決めてくれた」
「決めたの!?」
「ああ。だからサミナ、お前にも……帰ってきてほしい」
語調は柔らかさを保っていたものの、デイジのサミナに似た赤茶の目は、獲物を追う獣のようにギラギラとした光をたたえていた。「砂の民」は、散々、多数派先住民の「アフカスの民」から、野蛮だの獰猛だの言われてきているが、この瞳を見てしまうと、たしかにそのような偏見を抱いてしまうかもしれない。
「だけどっ! 今はもう、私はミタマの人間で」
「住処に出来て間もない人工島を選んでおいてよく言う」
サミナはぎくりとした。それは、今までに何度も自分の中で言い訳し続けていたことだった。
ここは新しい街だから、ムラ社会も複雑な階級制度もない。……だから、人間関係は希薄でいい。
「まあいい、俺は会えて嬉しいんだ。ポケモン持ってるんだろ? バトルしようぜ」
「……望むところよ」
トレーナーたるもの、バトルを申し込まれたなら、受けて立つのみだ。サミナは、ずっと持っていたモンスターボールをそのまま投げ上げた。
「ロゼリア、お願い!」
「今日も頼んだぞ、パレード」
パレードと呼ばれたデイジの手持ちは、平均より一回りは大きいドンファンだった。ロゼリアとは体長に差がありすぎるが、ロゼリアはいたって冷静だ。自分のポケモンに倣って、サミナも確実な技を支持する。
「“草結び”!」
相手が重量級であればあるほど威力の高くなる技だ。さっそくドンファンには大ダメージとなった。
「パレード、怯むな。そのまま“転がる”の起点にしろ」
ドンファンもバランス感覚が鍛えられているのか、完全に足取りを崩すことはなく、近距離からの“転がる”でロゼリアを軽く飛ばした。
「砂漠の環境で鍛錬してきた。このぐらい、へでもない」
「強い……」
サミナの話を練ろうの会(1)
- 2016/06/10(Fri)
その日も変わらず、たのもお、という声がヘキサシティジムに響いた。
「ジムリーダー・コア! 手合せ願います!」
「……サミナちゃん。また君か」
ほぼ毎日のように挑戦に来る白髪の少女サミナのことは、ジムリーダーのコアは既に見知っていた。
お互い少しずつ変えた戦略でフィールドを支配し、たまにサミナが勝つ。同じ相手と何度も戦うことで学べることもあるのだが。
「君の実力はとうに認めたし、その証であるライザーバッジも渡した。君なら他のジムでだって互角以上に戦えるだろう。だってのに、なんでまた」
「そうですね、それでは、コアさんの友人であるトリシティジムのガリオンさんやテトラタウンジムのラルクさんと戦いたいです。次はいついらっしゃるんですか」
「いつって言われてもなぁ……次会うのはトリシティでだし」
「来られる時は話してくださいね!」
「多分、会いに行ったほうが早いよ。――サミナ。旅には出ないのか?」
言われて、サミナは眉間に皺をよせた。
「ヘキサシティに居ればなんだってできるじゃないですか。それともなんですか、私を追い出したいんですか」
「それは飛躍しすぎだ。ジムリーダーには専門とするタイプってもんがある。俺は電気タイプのポケモンでしか相手できない。ミタマじゅうを周れば、いろんなタイプのポケモンに対応できるようになる」
「……それは、わかってますけど」
いつもその先は答えない。やっぱり手合せしてください! とサミナが押せば、コアはジムリーダーの顔になって応じた。
その日は四日ぶりの勝ちだった。
センターでポケモンを回復させ、ふと町を眺める。
人工島に生まれた娯楽の街ヘキサシティ。政治の中心であるペンタシティと双璧をなす、ミタマ地方の都市。
ここに居ればなんだって手に入る。遊びやレジャーのネタだって尽きないし、ポケモンを鍛える施設も質が高い。
そしてなにより――
「ミタマ地方在住民、サミナ――か?」
背後から自分の名を呼ばれ、サミナは振り向いた。声の主の姿を見て、低い位置でくくったツインテールが跳ねる。
「あなたは……?」
サミナは思わず、腰のモンスターボールをひとつ取った。
「サクハ地方砂の民、デイジ。祖先を同じくする同志だ」
ポケットモンスターeco チェイズタウン
- 2016/06/10(Fri)
次に訪れた町はどことなく活気がなかった。
活気といえば、レイラタウンだってチューリップばかりの田舎町であるから人は断然少ないが、ここチェイズタウンは人の表情がなんとなく暗く見えた。
「レイラタウンから来たのかい」
「はい。新人トレーナーで」
話しかけてきたのは、コダックを連れた老人だった。
「なら、あそこに見える建物を見るのは初めてだろう? あそこはポケモンセンター、ポケモンを無料で回復してもらえるよ。それでこっちが……」
老人はすたすた歩くので、リトもそれについて行った。コダックも見た目と違ってせかせか動く。そういえば、長い間人とポケモンが一緒にいるとだんだん似てくるのだ、とソウジ先生が言っていたな――とリトは思いだした。
「ふれんどりぃショップ。トレーナーに必要なアイテムはここで買えばいい」
次に老人が向かったのは、しばらく整備のされていない建物だった。
「で、ここがジム……だったんだけどね、少し前まで」
「今はジムじゃないんですか?」
「ああ、このざまさ。この町は汚染が進んでいないからって、今のチャンピオンがここのジムリーダーを辞めさせて他の町に公認ジムを作ったんだ」
老人はジムを見上げる。そのジムには、もうツタがはっている。窓ガラスはわれ、ポケモンだろうか、中では影が動いていた。
「まあ、もともとここのジムリーダーはトシだったんだけどなぁ! それでも、寂しいものなんだよ」