アマナさんとバイト
- 2018/10/13(Sat)
へえ、そんなことになっているの、とアマナは穏やかな口調を崩さず、しかし目だけ見開かせて答えた。
無理もない。今回ジラーチが目覚めたのは、昔の詩にも出てくる風景そのままの地域、ファウンスだ。まるで外界との交流が途絶えたかのような場所では、いくら都市の事を話しても眉唾ものと思われるのがオチだ。
「ジラーチのもとには行かないのか」
次はバイトが問うた。ジラーチの、千年前から変わらないその声は洞窟の向こうから聞こえてくる。
「今回は、彼がいるから」
心の清らかな子供がジラーチを目覚めさせる、今回はその役割に僕はいなかったのだよ、とアマナは続ける。そういえば、こいつは会う時々によって、基本的に童顔であるからわかりにくいものの、男だったり女だったり、年齢にも少し差がある。今回はどことなく老成しているから、つまりはそういうことなのだろう。
「いいのさ」
アマナがこちらを向く。どことなく心の内を見透かされている気がして、バイトは思わず視線を逸らした。
「あの子が独りぼっちじゃなければ」
フェリをモンスターボールにしまっていて正解だと思った。
アマナも長い時を生きているが、サイクルはジラーチと同じ千年に一度。バイトやフェリよりも、現世にいる時間はずっと短いはずなのに、その精神は、バイトよりずっと、大人なのかもしれない。
デシャロ【1】出会い編
- 2018/10/13(Sat)
他意はない。ただイベント好きの後輩に誘われたから付き合いとして付いてきただけだ。
今回のパーティはトライポカロンの世界で非常に人気のある女性パフォーマーが主催とあって、女性の参加者は皆オランデより若く、カラフルな衣装で着飾っていた。しかし彼女らは、オランデにはまだ「衣装を着て舞台でキラキラできていればそれが楽しい世代」としか映らない。
クラシックバレエは基礎が9割。ポケモンの存在など流派はあるが、基本的にはシエロで生まれカロスで発展し、そしてハロシイで完成した歴史があり、それに則ったパフォーマンスをする。
それに比べて、ポカロンというのはどうだ。ぽっと出の競技で、乙女の祭典だのプリンセスキーだの。何より伝統を重んじるミアレのハイカルチャー生まれのオランデには、その響き重視のフレーズがどうにも気に食わなかった。
まあでも後輩のためだ、と、ダンスの輪に参加した。この子はワルツのリズムがわかってない。この子は身体が硬い。この子は……
「あ、あの……?」
「……いや」
視線がかち合う。ゴールドの瞳と、揺れるロールへアーが印象的な彼女は、しかし自信がなさげだった。
「……爪先まで伸びてない」
「えっ」
やばい、とオランデは視線を逸らす。確かに、確かに僕は相手をする女の子たちの粗探しをしていた。しかし発言してしまっては、ただの嫌な男ではないか。
気を紛らわすように最後に大胆に回転して、パートナー交代。次の女の子は……表現力がなかった。
その彼女が、ビュッフェを取った時に話しかけてきたものだから驚いた。
「あの、先ほどの件ですが」
えーなになにー、と、後輩のテルロが顔を覗かせてくる。腕で払いながら、なんだい、とあくまで爽やかな紳士の振る舞いを保って返事した。
「爪先まで伸びてない、というのは特にどういう時でしたか?」
人は見た目によらない。馬鹿みたいに派手な衣装でも、根は真面目なケースがあるものだ。
「えー、オランデさんそんなこと言ったんですか。ひっど!」
ねー、とテルロが言うと彼女が笑って返す。オランデはひとつ咳払いをした。
「ワルツって三拍子だろ? ワン、の準備として脚を出すときに、爪先や膝が曲がっていたら舞台ですごく目立つんだ。気をつけたほうがいい」
「なるほど……」
彼女は携帯端末を取り出し、メモをとった。
「熱心だね。きっと君ならカロスクイーンになれるよ! オランデさん、ミアレバレエ団のシュジェだから言うことも的確だろうし」
「えっ、ミアレバレエ団の……?」
舞台を志すなら当然知ってくれているものかと思った!
彼女のその反応を見てまた卑屈になり、オランデは言った。
「僕もポカロンには特に興味ないからね、君の踊りがどうなろうが関係ないけれど。でもカロスでやるなら、多少は品格ってもんを持ってもらわないと……」
それを聞いた彼女の表情が曇る。真面目に受け止めてしまっているのだろう。しかし、オランデとて強い拘りがあるのだ。
「この業界じゃ、実力ある子への先輩のイビリは日常茶飯事。見込みあるってことさ、マドモアゼル」
「テルロ……!」
「そ、そのように受け止めても……」
「……」
オランデは頭を掻いた。確かに、さきのダンスで光るものを持っているな、と感じたのは目の前の彼女だけだった。そういう意味でテルロの言うことは正しい。
「あの……私、シャロといいます。憧れのミュージカル女優の方がポカロンに参加されて、私も今シーズンから参加を決めました」
「へえ、ミュージカル女優……そんなところからの参加もあるんだ」
アイドル色が強いから、今後のキャリアが限られるだろうと思っていたのだが。
「トライポカロンは、私に勇気をくれたもの。あなたにも、認められたいです」
「……ほう、そうかい」
僕は君よりいくらか世代が上だからね、と、紙と万年筆を取り出したオランデは、そこにメールアドレスを書いた。
「忘れっぽいし、今時のSNSもやってない。わざわざ競技日をチェックしたりもしない」
「……送れ、ということですね。わかりました。必ず送りますので、必ず来てくださいね」
「はいはい、必ずね」
これが、夢を追い始めた彼女と、道のどこかで夢を忘れてしまった青年との出会いであった。
サルメイデート ヒャッコク編
- 2018/10/13(Sat)
変装も兼ねて、気合の入ったサングラスで現れたメイアは、それでも不慣れな感が既に伝わってきていた。
「へえ、おしゃれして来てくれたのか」
「ま、まあ……デートだし?」
「そうだったな」
「何それ」
今日は初デート。こんな現場、盗撮は数多あれど、自分が当事者となるなんて……とサルビオは感慨に浸りつつも、ベンチから立ち上がって、恋人メイアに歩み寄った。
「ピアスがいいんでない。綺麗な水色、今日の格好に合ってる」
「……当たり前でしょ」
サングラスでも頬の紅潮は隠しきれていない。素直でないところも可愛いなぁと思うのだが、サルビオとてデートを成功させるために色々と考えを巡らせていた。
顔を上げれば高台と日時計に視線がぶつかる。ヒャッコクシティ育ちという、少しばかりお調子者の彼は、おすすめのデートコースを教えてほしい、と何も隠さずに訊けば、意外なほどに茶化すことなく答えてくれた。ネットで全て調べても良かったのだが、ミアレとそれ以外、と言われるほど偏りのあるカロス地方のことは、ネットよりも育った者の話のほうが参考になる。
「行こうか」
「……うん!」
メインストリートは服店が軒を連ねる。ミアレやクノエに並ぶ、隠れファッションの名所といったところで、昔風のショウケースに定番の服が並ぶ。
「ウィンドウショッピングってとこか」
「もし私の気に入るものがあったら?」
「その時は考える」
サミナの話を練ろうの会(3)
- 2018/10/14(Sun)
デイジとの一戦は、結論から言うと完敗だった。砂漠で鍛えられたポケモンたちに、人工島しか見たことがないサミナのポケモンは手も足も出なかったのだ。
「そんな……」
「少数民族の暮らしや伝説を復興させる運動は世界中で起きてる。これもグローバル化の恩恵だろうな。だから、サミナちゃん、君ももう一度考えてほしい」
言って、デイジは場を去った。その後も、足音がずっとサミナの内にこだましていた。
なるほど、とコアは唸る。
「もう手段なんて選んでられない! もっと強いトレーナーと戦って……」
「わかったよサミナ。じゃあ」
はじめて呼び捨てで呼んで、コアはサミナの肩に手を置いた。
「自分で行け」
「えっ……? でも私、ここしか見たことがなくて」
「君は変わりたいんだろう? だったら言い訳しちゃ駄目だ。彼に何かを伝えたいなら、見聞を広めて自分はどうしたいのかもう一度考えるべきだ」
はっきりと言われて、またサミナは心を閉ざしかけた。しかし、コアの言うとおりだ。
「俺はかつて、この島の街開きに関わった。それから、いろいろな人やポケモンが移住するにつれて、多様な文化や考え方を受け入れることになった。ここは自由だ、そう思ってくれるのは嬉しい。だけど、この土地に縛られてしまうと、やっぱり物事を多角的に見ることはできなくなってしまう」
「コアさん」
「外を知るんだ、サミナ。ペンタシティへは定期船が出ている。ラルクとガリオンの二人にも話しておくから、君がポケモンとともに本土を歩むんだ」
私がポケモンとともに。
コアの言葉に、ポケモンたちは賛成のようだった。思えばサミナは、ロゼリアの生息するような広い花畑も、カエンジシが走る燃えるような大地も、何も知らない。
この子たちの、ありのままの姿を知らない。
「……わかりました、私行きます。ただ……」
「ただ?」
そこでどもってしまったが、コアは続きを促すことはせずに待ってくれた。
「どんな状態で帰ってきても、受け入れてほしいです」
「……はは、なんだそういうことか! お安い御用だ、どんな姿で帰ってくるか、楽しみにしてるよ」
「ちょ、それはそれで……!」
「肩肘張らずに行ってきな、ほれ、選別だ」
「え?」
コアはサミナの掌に小物を落とした。それは黄色い星がモチーフのヘアピンだった。
「本土は山もあれば強風もある。前髪持ち上げて、視界がきいたほうがいいだろ!」
「……ありがとうございます」
サミナはそれをポケットにしまった。
旅支度をして船に乗り、丸い窓にはめられたガラスを見てヘアピンの存在を思い出す。窓を見ながらヘアピンをつけると、なんだか背筋がしゃんとした。
デシャロ【2】シャロの自室にて
- 2018/10/14(Sun)
ばふっ、と、ベッドはわかりやすい音でシャロの細身を受け入れる。伏せたまま顔だけ横を向き、気の抜けた声で、なんだかなー、と言った。
「はぁ……なぁーにが「多少は品格ってもんを持ってもらわないと……」よ! そんな言い方しなくてもいいじゃないもおー! くやしい!」
昼間出会ったオランデとかいうダンサーの口調を真似して独りごちると、部屋を漂っていたフラべべがシャロのすぐそばに落ち着き、一緒にぷんぷん怒ってくれる。
「よね! よね! ギャフンと言わせるしかないわ! カロスクイーンになって見返してやるー!」
勢いのままに布団でごろごろしていると、壁面のコルクボードに視線が止まった。そこには、シャロがひときわ憧れる存在――イッシュ地方のスズメ――の写真の切り抜きが留めてあった。
「……頑張ろ……、えっと、次の大会いつだっけ」
シャロは起き上がり、スケジュールのアプリをチェックした。忘れないうちに、メールを打ち始める。
普段使っている連絡用のSNSと違い、自由な装飾のできないメールの画面は、シャロに無機質な印象を与えた。それで、ちゃんとした文面にせねばならない、と焦り出す。
思えば、彼はミアレバレエ団のシュジェ。クラシックバレエ自体に興味を抱いてこなかったシャロだが、すべての踊りの基礎で、またシュジェという地位が名前のある登場人物を担当することもあるということは知っていた。師匠とするには良い立場の人だ。……ただあの性格ではあるが。
シャロはメールの書き方を調べた。今までは先生への挨拶も、競技への参加申請も、ママがしてくれた。しかし、これからはこういうことも自分でしていかなければならない。
オランデさんへ
こんばんは。今日はご指導ありがとうございました。
次の大会の予定を送ります。
……
「こんなもんかー、っと」
送信ボタンを押すと、途端にどっと疲労が襲ってきた。絵文字のない文面には慣れていない。
まだ九時だというのに布団に潜り、寝れずに数分、シャロはじわじわと後悔を覚えていた。まだ駆け出しで勝ち上がれるかもわからない、そんな段階で送ってよかったのか?
枕元のライトをつけて端末をとったその瞬間、返信がきた。
<わかった。その日は空いているから行くよ>
空いてたかー。そんで、こっちはあんなに頑張って打ったのに、返信は一行かー。
再びライトを消す。こうなってしまっては、くよくよ悩む暇もない。
「なんてったって、乙女はくじけないのよ! やるしかない!」
気合を入れなおせば、その後はすんなり寝付けた。
サミナの話を練ろうの会(4)
- 2018/10/15(Mon)
ペンタシティの港では人やポケモンたちが思い思いに過ごしていた。
カラフルな浮き輪が入り口を飾る飲食店を見て、サミナはコアの料理を思い出す。しかし彼ともしばらくお別れなのだと、サミナはヘアピンを指でなぞった。
ヘキサシティとの違いでまず明白なのは、土地の広さだ。ミタマ本土にはあまり高層ビルがないと聞いていたが、ショッピングモールもオフィスも低層建築で、駐車場も平面のみ。政治の中心、ペンタシティでこれなのだから、他の町もそうなのだろう。
「あの船に乗ってきたの? 面白いポケモン持ってるね」
「えっ、ミノムッチのこと?」
突然、二十代後半ぐらいのスッとした立ち姿の女性に話しかけられた。ミタマ本土の風習に倣ってサミナがその時ボールから出していたのは、ロゼリア、カエンジシ、そしてミノムッチだ。
「えっと……面白いってどういうことですか?」
「本当に知らないみたいだね。旅を続けていると、きっと驚くべき発見があるよ。きっと君たちを楽しくしてくれる。……それと、うちのスクールは旅人に向けた体験教室もしてるから、エーディア様の思し召しがあればまた会いましょう」
そう言って彼女が差し出したポケットティッシュには、ペンタシティトレーナーズスクールへの地図が載っていた。
教室とは言うものの。
興味を抱いてトレーナーズスクールに来たサミナを待ち構えていたのは、他のトレーナーとの連戦だった。
「ほっ、ほんとに体験しかないじゃーん!」
なかば涙目になって生徒とのバトルに応じるサミナだが、こんなところで負けるわけにはいかないと心を強く持った。
「カエンジシ、炎のキバー!」
毒を受けながらもカエンジシは勇敢にも相手のコイルに噛みつき、そのままコイルは空中を漂い、やがて戦闘不能となった。
「タイプ相性、よし。しかしカエンジシも毒状態……毎ターン体力が削られてもう持たないはず」
おしゃれなフレームの眼鏡をかけた男子生徒が言った。
「……そ、そうだった!」
「焦らないで。こういう場合は、毒消しやモモンの実で毒を癒せる」
そう言って、生徒の少年は、サミナのカエンジシに毒消しを吹きかけた。
「あと旅するならこれも覚えておいたほうがいい。元気のかけらは田舎のお店でも買える」
言って、少年はなれた手つきで「元気のかけら」と呼ばれた石のような道具をコイルにかざした。ひんし状態であったのに、またコイルは起き上がり、場を漂う。万全の状態ではないが、気分は良いようだ。
「えっ……ポケモンセンター以外でこんな方法があったの」
「そう。街にいるならポケモンセンターでいいけど、旅するなら用意しておいたほうがいい」
スクールはこんな具合で、生徒一人に勝つたびに旅のアドバイスをもらえた。全戦を終え、先ほどの女性に再会した時には、サミナにもかなりバトルや旅の知識がついていた。
「来てくれたんだね! 嬉しいよ。それじゃこれ。モールでのポケモンアイテム割引券!」
何々が何パーセントオフ、と書かれた割引券を見て、サミナは腑に落ちた。この無料体験教室は、ペンタシティのショッピングモールとのコラボ企画だったのだ。
「なるほどねー……。でも、実践経験も知識も増えて、とても楽しかったです」
「良かった。これからの旅路もエーディア様が見守ってくださることを祈っているわ」
コアの知り合いであるラルクやガリオンに挑むためには、ドーラン山脈と呼ばれる難所を越える必要があった。
貰った割引券をフルに使って、旅支度を改めて整える。足腰に自信はない。しかし、不安そうなサミナとは裏腹に、ポケモンたちは皆元気そうだ。
「……みんな、もとは自然から来たんだもんね」
それは人間のサミナとて例外ではない。もっと多くを知り、自身が砂の民の子孫であることに何らかの結論を見出だせるように。また力強く、一歩を踏み出した。
サミナの話を練ろうの会(5)
- 2018/10/15(Mon)
海岸線に沿って歩き、たどり着いた場所はアスラタウンという小さな町だった。
色とりどりのお花や木の実が風に揺れるのどかな風景の向こうには、煙を吐き出すドーラン山がそびえている。
お花畑でのピクニックがひそかな夢だったサミナは、ポケモンセンターの厨房を借りて、サンドイッチを作った。もちろんポケモンたちには、彼らの大好きな木の実を入れて。
「いただきまーす!」
まずは野菜と卵のサンドを一口。周りを見渡してさらに幸せな気持ちに浸る。デザートのフルーツサンドを口にしたとき、サミナはポケモンたちに話しかけた。
「ねえ、みんなおいしいかな……って、んん?」
サミナはポケモンたち一匹一匹に視線を移し、最後のミノムッチを見たときに首を傾げた。
「ミノムッチ……ミノ、そんなんだっけ?」
「ぷしゅ?」
「はっは。この町の草地はお布団に丁度いいからなぁ」
顔を上げると、そこには気の良さそうなおじさんがいた。ヘキサシティではまず見かけない服装から察するに、どうやら畑仕事を生業としているようだ。
「ミノ、変えちゃったんですか?」
「トレーナーのミノムッチは、バトルもするからミノの持ちが悪いんだな。そこで、ミノは大抵現地調達をしているのさ。お前さんは都会から来たのかい?」
「はい。いつももっと硬い素材のミノで」
「ならそれはゴミのミノだな」
「ゴミッ……」
知られざるミノの素材を聞かされ、サミナは身の毛がよだつ思いがした。おじさんはまた笑う。
「人間にとってのゴミでも、ミノムッチにとっては大切な我が家だ」
「なるほど……?」
「その調子なら、わたしの畑にも驚いてくれるかもしれん。蜜も木の実もたっぷり採れるぞ。どうだ、付いてこんか?」
「えっ、でも、おじさんの土地ですよね? お金を払って譲っていただかないと」
「エーディア様の思し召しで出会えた旅人から金は取れんよ。ポケモンたちは準備万端だな。よし、レッツゴー」
おじさんの畑には、ミツハニーと呼ばれるポケモンたちが飛び交っていた。おじさんは赤い額の個体をさして言う。
「今は働き蜂だが、あいつは女王蜂になるね」
「メスってことですか?」
「そうそう。お前さんのミノムッチもメスだから、オスとは進化先が違う」
「へぇー……」
それも知らなかったことで、サミナには興味深い話だった。
「おっ、着い……」
「ローリー!」
おじさんが言い終わるまでに、ロゼリアが眼前の花畑に飛び込む。ロゼリアそっくりのばら園だ。
「すごーい! これがばら……!」
「ロゼリアは、人間が青いバラの交配に成功したとき、いつの間にか隣りにいて発見されたポケモンと言われておる。ここには青いバラはないが、きっとどこか懐かしい感じがするのだろう」
「そうなの? ロゼリア」
「ロリー!」
ロゼリアは腕をぶんぶん振る。どうやらサミナについてきてほしいようだ。
ばら園を散歩していると、バラも品種ごとに香りが少しずつ違うのがわかる。どれも素敵な香りだ。
「ロゼリアのばらももっと良い香りになるのかな?」
「ロリ?」
「そうだなー、アロマセラピストのアシスタントをしているロゼリアは、みんな良い水を飲んでいるという。アスラタウンのわき水も甘くておいしいから、エーディア様の許すぶんだけ川から汲んできたらいいよ」
「そっかー。だって、ロゼリア! 行くしかないね。おじさん、色々と本当に有難うございました!」
わき水を汲んで一杯。こんなおいしい水は飲んだことがないとサミナは感動を覚えた。
険しい岩肌が空を突っ切る。ドーラン山はすぐそこだ。
サミナの話を練ろうの会(7)
- 2018/10/16(Tue)
ドーラン山脈の谷にあるテトラタウンは、行き交う人のほとんどが旅人や修行者であった。通りには小売店や旅籠が並ぶ。この土地らしく足湯もあって、サミナはそこで足を癒した。
「こんなところまでよく来たね。お嬢さんと出会えたのもエーディア様の思し召しかな」
「エーディア様の思し召しなら修行再開。そうでなければいつになるかな」
ペンタシティに着いた時から思っていたことだが、ミタマ本土の人間は、この地方で神様とされているポケモン、エーディアの名を口にする。
サミナもミタマの人間であるからエーディアのことを尊敬しているが、なんというか、本土の人間は信仰の根付き方が違うのだ。どの町の人間でも、どの立場の人間でも、エーディアを敬い、挨拶をし、助け合っている。それは嘗て、サミナが「親密すぎる人間関係」として避けてきた考え方でもあった。
しかし今は、本土の人間が――少し羨ましいとすら思う。
ビードロ工場は町の外れにあった。テラスの内側に色とりどりのガラス細工が並べられている。どうやら販売もここでしているらしい。
「おっ、灰袋だな! よし、これだけあれば作れるぞ」
工場長に灰袋を見せたサミナは、商品のカタログを差し出された。
「えっ、これは」
「欲しいものを選びな。この量だとグループAのものは全部作れる」
「貰えるんですか!?」
「さてはお前もラルクからだな? うちは灰袋に火山灰を集めてくれたトレーナーに、集まったぶんの半分で作れるビードロ細工をプレゼントしてんだ。つまりバイト」
知らず知らずのうちにアルバイトをしていたとは。サミナは驚いたが、しかしラルクのヒントというのはアルバイト行為そのものではないはずだ。
カタログに目を凝らす。ミタマでは定番のポケモンであるイーブイや進化系たちの置物、ストラップ。グレイシアやドラグルラなんかは雰囲気がぴったりだ。それから食器類、ここにもイーブイたちが軽快なタッチで描かれている。
(どれが正解……?)
ここにヒントがあるはずなのだ。サミナはさらに視線を移し、茶色いラインで囲まれた項目にはっとした。
『バトルや旅で大活躍! ビードロ細工のポッピン』
これか、とサミナは察する。火山灰の量も少なく作ってもらえるものだが、載っているポッピン全てを作ってもらうことは出来ない。
(どれを選ぶのがいいんだろう)
眠気を覚ます青いビードロ。混乱を治す黄色ビードロ。恋の情熱を抑える赤いビードロ。それから、野生ポケモンの飛び出しやすさに関係する白いビードロと黒いビードロ。
サミナはトレーナーズスクールでのバトルを思い出す。ラルクさんはゴーストタイプのエキスパート。ゴーストタイプの主たる戦略といえば……
「来たね。さあ、君の実力を見せてもらおうか」
ジムでのラルクは、サミナの旅路を詳しく聞くこともなく、フィールドのジムリーダーサイドに立った。サミナも挑戦者サイドに立つ。
サミナといえば、ラルクに訊きたいことは山ほどあった。それでも、今することはバトルしかない。俺は喋るのが好きだけど、たまにバトルでのほうが饒舌なやつがいる、と昔コアに教えてもらったのだ。
「ソウルスピ、いけ」
「いくよ、ミノムッチ」
「ぷしゅ!」
ミノムッチはバトルには向かないポケモンだ。戦術もシンプルなものしか取れない。しかし、そうであるからこそ、実力を測ってもらうにはぴったりだと思ったのだ。
「シャドーボール」
「虫食い!」
いきなりの相打ち。しかしやはり攻撃力では劣ってしまう。
「守る」
「……不意討ち、できなかったか」
ゴーストタイプを相手にするとき、大切にすべきは「勘」と「読み」。ゴーストタイプの種族はは攻撃技でひたすら攻めるというよりは、変化技や動きを封じる技で相手を不利な状況に陥れる。薄暗いジムで、相手の動きやラルクとの位置関係から次の行動を察し、「守る」か「虫食い」を指示する。これがサミナの戦略のすべてだった。
「今だ、不意討ち」
「ああっ!」
相手の体力もだいぶ削れただろうか、というところで、ソウルスピの不意討ちが決まってしまい、ミノムッチは飛ばされてしまった。
「ミノムッチ、戦闘不能。ソウルスピの勝ち」
「自慢のミノが……頑張ってくれたね。またミノ探しに行こうね」
「しゅ……!」
モンスターボールに戻し、サミナは前を向く。ラルクは真っ直ぐ視線を返し、笑んだ。ミノムッチは倒れてしまったが、圧倒的な力の差による負けではなく読みによるギリギリの負けであることにサミナは満足感を抱いていた。ミノムッチ、あなたはまだまだ強くなれるよ。
次のポケモンはロゼリア。毒のトゲを見せつけて、相手の直接攻撃……即ち不意討ちを牽制する。
「厄介だな。ソウルスピ、怪しい光」
はい、来ました!
サミナは鞄から黄色いビードロを取り出し、その場で吹く。ペコペコという音が、混乱しかけていたロゼリアを正気にさせた。
おっ、と、ラルクが言うのをサミナは聞き逃さなかった。
バトルが終わった時、最後の手持ち、カエンジシの体力は残り僅かであった。つまり、危機一髪ではあったがサミナの勝ちだ。
「ヒント。わかってくれたみたいだな」
サミナに歩み寄り、ラルクが言った。
「ゴースト対策のビードロ! 黄色ビードロと青いビードロが灰少なめで助かりました。怪しい光も催眠術もゴーストタイプでは定番といいますから」
「さすが。この旅路で、君も成長しているのだろう。これもエーディア様の思し召し、ならば」
そう言って、ラルクは挑戦者の勝利の証であるチャームをサミナに渡した。サミナが鞄のファスナー部にチャームをつけると、勝利を祝うようにチャームが光った。
「……ラルクさん」
さきの言葉を聞いて、サミナは相談してみることにした。
「エーディア様の思し召し、っておっしゃいましたよね。実は今回、挑戦させていただいたのは……」
デイジとの出会い、自身の出自がサクハ地方の「砂の民」であること、そして本土に来て、その弛みないエーディア信仰について思ったことを話すと、なるほどな、とラルクは言った。
「俺は間違ってないと思う。彼……デイジの考え」
「え?」
「エーディア様の神話を口伝してる俺が言うのもなんだが……否、口伝しているからこそか。支配や普遍宗教により消えた民族の伝承は数多ある。ここミタマだって、もっとずっと大昔には氏族ごとに集落があって、もっと多くの神々を信仰していた……のかもしれない」
サミナは頷き、続きを促した。
「今の教義では、エーディア様は世界の全てを見渡し、世界の全てを愛してくださっている。しかし、神話は、エーディア様と神子、一柱と一人の物語から始まる。つまり元々はもっとローカルなものだったんだ。エーディア様と神子の力を広め、エーディア教を布教することは、ミタマ地方の勃興にあたって通らざるをえなかった道、ともとれるのだ」
あるときは互いを認め合うために。
あるときは支配者と被支配者の緊張を緩和するために。
「サクハ地方の四天王にキュラスという女の子がいる。彼女とは知り合いなのだが、彼女は嘗て南部のサクハに併合された北部サクハにルーツがあると話してくれた。しかし北部民も仕事を求めて南部に多くが移ってしまったから、嘗ての信仰の全容は掴めないのだと。彼女らにも、民族のルーツに繋がる神話がきっと存在したはずなのに」
「なるほど……」
「自民族の復興のため尽くすのか、より大きく統一的な信仰のもと生きてゆくのか。どちらも間違ってはいない。しかしどちらかの生き方を貶めてはならない。心は自由なのだから」
ラルクがジムの扉を開けると、西日がラルクの瞳をも照らした。霊媒能力者である彼にはもともと何も隠し事はできないと感じていたが、どうやら彼が人の心の深きを知るのは、生まれもったその力のお陰だけではないらしい。
「……有難うございます。私もまた考えてみます」
「うん、応援してるよ」
サミナの話を練ろうの会(6)
- 2018/10/16(Tue)
汗がじわりと浮かぶ。ヘキサシティの夏とどちらが暑いであろうか。
タオルで汗を拭うと、足下ではロゼリアが必死に風を送ってくれていた。
「ありがとロゼリア。大丈夫だよ」
「ローリ?」
汲んできたアスラタウンのわき水で喉を潤すと、眼下の光景を改めて見る。ドーラン山のマグマは、カエンジシの炎と同じぐらいか、それ以上に深い赤をしていた。環境が合うのか、ここに来てからカエンジシはずっと元気だ。
「ワフッ!」
そしてまた駆け出す。
「ま、待ってよー! って、わっ」
バランスが後方に崩れ、サミナの視界が転じた。背後は下り坂だ。まずい……!
ロゼリアとミノムッチの悲痛な声が聞こえる……しかし、痛まなければ滑り落ちることもない。
何かに支えられているのか、これ以上こけないことを察し、胸をなで下ろし……たところ、
「マァ〜〜!」
と声をかけられ、心臓が飛び出るほど驚いた。
「えっ……ポケモン?」
「間一髪だったな、お嬢さん。よくやった、ムウマージ」
どうやらサミナの背後から支えてくれていたポケモンがいるらしい。サミナはそのポケモンと向かい合い、例を言った。
「ありがと。……めちゃくちゃびっくりしたけど」
「マァー」
「こいつはすぐ人を脅かしたがるからな。お嬢さん、ドーラン山ははじめて……って、え」
「ああ!」
目の前に立っていたのは、ジムリーダー・コアの友人、テトラタウンジムリーダーのラルクだったのだ。暗い色のフードに隠れた目はいまいち感情を読み取れないが、口は笑っていた。
「お久しぶりです! サミナです。覚えていただいているでしょうか」
「会うたびにコアが話してくるから嫌でも覚えるさ」
サミナは苦笑した。ラルクとコアは出会えばへらず口、そしてバトル。しかしそれも親しきことの証なのだとガリオンが言っていた。
「エーディア様の思し召しとはいえ驚いたな。旅を始めたのか」
「はい。まあ……色々あって。ここを越えたらラルクさんにも挑戦したいと思ってて……」
「へえ、光栄だな。それじゃあこれを」
ラルクはリュック二つ分はありそうな袋をサミナに差し出した。
「これは?」
「灰袋。火山灰集めてみな。まあ俺からの軽いヒントだ」
ラルクと別れてからも、サミナにはヒントの意図がわからなかった。しかし、カエンジシは乗り気のようで、火山灰の積もったところを見つけてはサミナを促す。灰袋につめるのはなかなか足腰に来る作業で、袋を引きずっていると、後ろからロゼリアとミノムッチが押してくれた。
「ちょ、いいって! 汚れちゃうよ」
しかし、今日の二匹は、自慢のばらやミノが汚れても平気な様子だった。
「楽しいのかな……? 疲れたらすぐ私かカエンジシに乗るんだよ」
そのまま休憩を挟みつつ火山灰を集め、中身が六分目に達したところで、カエンジシは足を止めた。
「カエンジシ? なにかあるの……おわっ」
煙の向こうに見えたのは、天然温泉だった。入浴の文化で育っていないサミナはもちろん初見だ。ただ、ドーラン山の温泉は昔から戦士たちやポケモンを癒やしていたのだと学校で習ったことはある。
サミナが早速手を浸そうとするとカエンジシに止められる。どうしたの、と声を掛けると、カエンジシは先に自分の前足を浸した。摂氏6000度の熱にも耐えられるカエンジシが、これは人間でも浸かれる水温なのか見てくれているのだ。
カエンジシは頷いた。続いて場にいくつかあった温泉に順番に前足を浸し、ロゼリアとミノムッチを案内する。
「ありがとカエンジシ!」
サミナは水着に着替えてお湯に浸かる。また汗をかいたが不快感はない。カエンジシは水温の高いお湯が気に入ったようで、少し離れたところで自らの身体を癒している。
思い思いに温泉を楽しんだところで、サミナは仲間を集めて言った。
「みんな、今日は本当にありがとう。この火山灰がどうなるのかわからないけど……次の町ももうすぐみたいだし、ラルクさんのことだから何かあるはず。これからも頑張ってこ!」
「ガウ」
「ローリー!」
「ぷしゅう!」
一行は、皆爽やかな顔色をしていた。
サミナの話を練ろうの会(8)
- 2018/10/17(Wed)
ガリオンがジムリーダーを務める町、トリシティまではまた一山超える必要があり、この日サミナは野宿をしていた。カエンジシがいるお陰で洞窟はほどよい明るさと温度を保ち、野宿に不慣れなサミナもぐっすりと眠ることができた。
そのため、ミノムッチの変化により驚いたともいえる。
「どっ……どうしたのミノムッチ!?」
確かにラルクとのバトルでミノは減っていた。それに、一緒に探そうとも言った。しかしミノムッチには、こんなこと文字通り朝飯前……だったようだ。
「岩と砂? 咳き込まない?」
サミナはミノの作りを危惧するが、ミノムッチはまるで平気だ。何と言ってもゴミでミノを作り過ごしてきたのだから、見た目よりは丈夫なポケモンなのかもしれない、とサミナは考える。
「ミノムッチ、進化したら同じものでミノを作るんだってね? どのミノが気に入った?」
問うと、ミノムッチは悩む素振りを見せた。
ひとつに決められない。
それは今のサミナもそうだ。ラルクに言われて気持ちを整理したが、サクハ地方に行って砂の民のことを知るのもひとつの選択肢であると今は思える。そして、サミナがそんな考えを抱けたのは、きっと旅をして気持ちが自立したからだ。
トリシティへは午前のうちに辿り着いた。これまでは花畑や火山を見てきたが、この街は木の上に家が建てられた、自然と共生する街だった。ちょうど目の前の人が手紙をかざすと、バッジをつけた鳥ポケモンがそれを受け取る。
「ほっ、ほんものだー」
伝書ポケモン。地理の授業で習ったそのままの光景だ。
それに見とれていると、ロゼリアが横飛びする。何事だと視界を眼前に移せば、そこには野生のゴローンがいた。
「わっびっくりした! マジカルリーフ!」
ロゼリアがマジカルリーフを放つと、驚いたゴローンは茂みのほうへ去っていった。
「そこはポケモンの道。ひとの道はこっちさ」
空から声が聞こえてきて、サミナは再び顔を上げた。薄紫色の髪を靡かせた、経験の深そうな男性……彼は確か。
「ガリオンさん!」
「私への挑戦だそうだな。話はコアから聞いている」
トリシティ産の茶葉でお茶を淹れてもらい、ログハウスで一息。深く息を吸い込むと、お茶の香りと森の匂いでとても気分が落ち着いた。
「試合前の精神統一。落ち着いていただけたかな」
「……はい。ということは、バトルしてくださるということですね」
ガリオンはジムリーダーであるとともに、Sランクのポケモンソムリエであるという。生半可な気持ちで挑んで、突破できる相手ではないだろう。
森の空気を吸って気合の入ったロゼリアが先発。ガリオンはというと、ミタマ地方でのみ見られるイーブイの進化系、飛行タイプのウィングルだった。
そうだ、ここは飛行タイプのジム。鳥ポケモンは友達とまで言う彼だ。相手の動きには気をつけないと。
「ロゼリア、宿り木の種!」
「ロリッ」
相手に種を植え付け、すぐカエンジシに交代。しかしウィングルの攻撃も等倍で受けられるとはいえ、カエンジシにはなかなか痛手だ。
変化技で交代するロゼリア、メインで攻撃するカエンジシ、そして「守る」で相手の出足をうかがうミノムッチ。ポケモンごとに役割をきっちり決める戦略はサミナには不得意だったが、この旅で学んだこともある。
少し花がしぼんでしまったようで、ロゼリアは不服そうな表情をしていた。
「まああれだけ痺れ粉や宿り木の種を振りまいていたらなぁ……でもおめでとう、君たちの勝ちだ」
「やったよ! お疲れ様、ロゼリア」
何度も交代し、変化技をぶつけていたロゼリアもへろへろだ。洞窟で取った水も気に入ってくれたようで、飲むと両手の花も瑞々しさを取り戻した。
チャームを渡し、ガリオンはサミナに訊ねる。
「この後はどうするんだ」
「一度ヘキサシティに帰ります。……それから」
それから。デイジに再び会い、話をつける。でも、何を話そうか?
「旅で感じたことをそのまま話せばいい」
サミナの気持ちを察したのか、ガリオンは諭すように言った。
「今までに考え方が変わったかもしれない。むしろこれから何かが変わるのかもしれない。それは恥ずかしいことではなかった。それは嘗てのアスナ様も同じだったのだから」
「アスナ様?」
アスナといえば、ミタマ地方のチャンピオンにしてエーディアの神子。彼女の革新的な政策により、鎖国状態にあったミタマに市場経済がもたらされ、それに影響を受けたコアが人工島、ヘキサシティを造った。つまり遠い人に思えるが、実はサミナの今の生活は彼女の足跡によってあるようなものだ。
「アスナ様は、人間は醜く非力な生き物だと思っていたんだが……カロス地方に行って、様々なものを見て、考えを変えたのだろう。保守的なミタマの象徴ともとれる神子に生まれた彼女が、自らの考えを変えたこと。それを助けたのは……ほんの少しの勇気だ」
「ほんの少しの勇気……ラーディ様が勇気を司るポケモンでしたね」
サミナは学校で習ったエーディア神話を思い出して言った。ミタマ地方の伝説のポケモンは、まず何よりエーディア。そして、エーディアの羽、涙、爪から生まれたとされる、友愛ポケモンのユーリア。知性ポケモンのエグニマ。そして、勇気ポケモンのラーディ。
「そうだな。信仰の本質も、ある意味そこにある。嘗てのアスナ様の考え方も、間違っていたわけではない。「人間とは不完全だ」、こう言い換えると受け入れやすい」
確かに、とサミナは相槌をうった。
「人間は不完全だ。不完全だからこそ、友愛や知性、そして勇気を尊きものとし、不完全な人間同士、そして人とポケモンも、協力しあって生きていこうというのが宗教の存在価値ではないかな」
ああ、と、サミナはこれまでの旅路を思い出す。
法の下の平等が実現した社会ではあるが、ここミタマ地方では、それよりずっと前から「エーディア様の下の平等」が、きっと存在していたのだ。信仰から生まれる助け合いの心。かつての離散でこの地方に辿り着いた曽祖父母も、きっとそんなミタマの民の素朴な心に救われたのだろう。
世代を超えて、サミナは今、多くの優しさに触れられている。
「ガリオンさん、有難うございます。私も……全部できるかはわからないけど、しっかりやっていきます」
「その意気だよ。ムクホーク、彼女をヘキサシティまで送ってくれるかい」
「ビィ!」
「有難うムクホーク。よろしくね」
広場に出てムクホークに飛び乗り、小さくなってゆくツリーハウスを見ながら、サミナは柄にもなくお祈りをしていた。
エーディア様、ユーリア様、エグニマ様、ラーディ様。どうか、私を見守ってください。私自身で正しい道を選べるように、と。
[前の10件表示] [
掃溜]
[
次の10件表示]