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ライメグを史実にする会(2)
2019/01/12(Sat)
 メグが襲われた。
 名前は報道されなかったし、もう二年は会っていないが、画面に一瞬だけ写った金髪の女性は、間違いなく幼馴染のメグだった。
 その事実が、確かにコウライのペースを乱していく。
「そない心配やったらメッセージの一つでも送ったら?」
「ヒナさん……いつの間に」
「ヤマトがえらい困った顔で助け求めて来てなぁ〜。ポケモンに気い使わしてどないすんねん」
「んー……」
 手を伸ばすと、ウォーグルのヤマトが甘えてくる。トレーナーがこの調子でも、怒ってはこない。こんな状況でコウライは安心して良いのかはかりかねていた。
「ニュースではもう、ミアレの件は解決したゆーてたやん。うちもあの子信じてるし。それか何なん、メグちゃん信じてへんの?」
「ちげーよ! オレはなぁ……! ただ……」
「可愛い妹分が心配?」
「妹……ってか……」
 三歳下のうるさい幼馴染。コウライにとっての認識は、ここで止まっているはずだった。そこで止めておけばよかったのに、二年前の別れが、ずっと尾を引いていた。
 見送る笑顔。笑顔はメグのトレードマークでもある。しかしその直前、カロスへ行くと告げた時の、その表情を見逃すわけがない。
「まあ……ずっと幼馴染ですしぃ?」
「今時ネットがあるやろ」
「向こうは旅行じゃん?ほら受信に追加料金でもかかったら迷惑…」
「はいはいやらへん言い訳〜。メグちゃんもカフェ探すやろ。それとも何、うちからメッセージ送っ」
「それはダメだ」
 随分と凄んでいたのか、ヒナタよりもむしろヤマトが引いていた。ヒナタはヤマトにバイバイし、踵を返す。
「ほんっまおもろいわぁ、自分ら。決勝トーナメント絶対上がって来いやーめっちゃ楽しみやわ」
「ヒナさん酷くね……!?通過確定だからって余裕かよ……」
 ヒナタがさり、ヤマトがコウライの顔色を伺う。
「ま、オレも心配しすぎだよな! ヒナさんと喋ってすっきりしたぜ」
 コウライはそう言って笑うが、長年の相棒、ヤマトはわかっていた。彼の真意は、ここにはない。

 離れることを決めたそばから、好意を自覚するなんてみっともない。何より非効率的だ。
 ただの幼馴染を女の子として可愛いと思えたのは、はじめてチガヤに勝った時だ。サッカーの時みたいに、ただクラブではなくコウライ個人を応援してくれて、勝った時も一緒に喜んでくれた。ただあの時は、ライバルに勝った喜びで高揚していたし、何もかもがいつもより輝いて見えただけなのだ――
「あでで!」
「クルクルッ!」
 過去に思いを馳せていると、ウォーグルのヤマトが嘴をぐりぐり当ててきて現実に戻してくる。ウォーグルが示す先を見ると、時計は試合開始十分前を指していた。もう入場しないと失格扱いになってしまう。
「やっべー! 巻くぞ!」

 ○

 他意はない。
 ただ、せっかくカロス地方まで足を運んだならば、幼馴染の試合の様子も見ておいたほうが、お土産話は増えるというもの。
「……だってのにさぁ」
 コウライは押されている。シュバルゴのナイトは攻めも守りもできるオールラウンダーだが、守りを連続で指示して失敗だなんて、かなり初歩的なミスだとバトルに詳しくないメグでもわかる。
 私がいなくても勝てたみたいね、と優雅に場を去る――という選択肢がまず無くなった。
 ではこのまま眺めるか、応援するか。応援といっても英語でしかできないから、この場では浮くだろう。
「……エルさん、タムさん、バンドのみんな。……そのハチャメチャっぷり、数十年越しに借りてくから」
 そう呟いて、応援旗を持ち上げる。まず観客席がざわめき、コウライは振り返りこそしないものの、その仕草で観客席に変化があったことは察しているのだとメグにはわかった。
「ごっさん、いっくよー!」

 Hey Korai Can you hear me?

「……は?」
 呆れた顔で、コウライは振り返る。
 それもそのはず。この曲は、お遊びカバー曲が中心のあのバンドで、唯一のオリジナル曲なのだ。当然観客席に知るものはいない。

「コーライ! オーライ!」
「コーライ! オーライ!」
 どちらも「all right」と歌われるフレーズを、コーライと替えれば、理解した観客もコールに加わる。
「カロスまで来てグループリーグに敗退するトレーナーじゃないだろー!?」
 コールリーダーになり、培った声量と、すっかり板についた男言葉で、コウライを激励する。隣ではごっさんがトランペットを吹いていた。
「……ノー! その通りだぜ」
 コウライはそれだけ言い放ち、シュバルゴに指示する。
「ナイト、剣の舞!」
「今更能力を上げてどうなるっての! また炎の渦で……」
「起死回生!」
 炎技で削られ、威力を増したその技が相手を襲う。これが決定打となった。
「シュバルゴの勝ち。よって勝者、ライモンシティのコウライ! また決勝トーナメントへの進出も確定」
「やっっっ……」
 たー! と叫びたいところなのだが、メグは一旦その場から退くことにした。自分のしたことを思い出したのだ。
「チャリザードってU-20は衛星放送でもやってんだっけ……エルさんタムさんどう思うかなぁ。胃が痛い……」

 ○

 一方その頃イッシュ地方。
<なーなーエルサン聞いたか? めっちゃおんもしれーんだけど!>
<もーアタシも久し振りに爆笑したわよ! ところで、なんでタムじゃなくてティム坊が電話かけてくるわけ?>
<決まってんじゃねーか、タムがダイニングで項垂れてっからだよ>
<あー、あそこ作詞したの、タムだっけ……>

「そこ、電話してんじゃねーよ……!」
「ギャー、ダディ! いつ誰にかけようと自由だろ!」



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