ライメグを史実にする会(4)
2019/01/13(Sun)
ドラマのヒロインは、なぜ意中の男子と話すタイミングで可愛くなれるのだろう。メグは見た目のおしゃれはドラマのヒロインたちに並ぶレベルだと自負していたが、中身は彼女たちに遠く及ばなかった。
腕を広げるコウライを無視してナイトにハグしたのは、もちろんなあなあなまま男女としての関係になりたくなかったからだ。だからといって、相手に全てを任せすぎではないのか。
メグは十七歳。高校も卒業する歳だ。このままでは卒業式のダンスパーティに、コウライをパートナーとして招くこともできない――ということを思い出し、少し焦りつつもあった。わかってよ、という気持ちが半分、私もやらなきゃ、という気持ちも半分。
「いっくぜー! ヤマト!」
観客席から彼を見る。あれからすっかり調子づいてしまったようで、連戦連勝である。メグの激励で、むしろ恋路は遠ざかってしまったのではないだろうかと思うぐらいに。
「勝者、ライモンシティのコウライ!」
「やったー!」
「よしっ」
それでも、勝てば真っ先に声を届けたら、コウライはいつも観客席のメグを見つけてくれる。まだ役割はあるのだと思うと、それは素直に嬉しかった。
そして決勝の日が訪れた。
「ヒナさん! ぜってー勝ってすっきり決めてやるぜ」
「うーわ予想してたけどこの立ち位置めっちゃやりにくいな?」
その会話に、メグの心臓が跳ねる。
彼らのやりとりを、カロス人の観客たちは、昇格が決まった他地方出身者同士の試合だからこその心理だと捉えたようだが、どうもメグには別の意味を持って聞こえた。
「二人とも頑張ってよー!」
「メグ!」
「メグちゃん。久しぶり」
手を振ると、コウライもヒナタも振り返った。プロサッカースタジアムよりは狭い、ポケモンバトルアマチュア二部の試合が行われるこのフィールドでは、意中のトレーナーとのやりとりもあっさり叶ってしまう。
「見てよ、観戦してるだけなのにカロス人の友達が増えちゃった! 消化試合のこのバトル、それでも面白いものにしてくれるだろうって、みんな期待してるんだよ!」
「ライー、ヒナター、手え抜いたら許さんぞー」
「子供送って、足運んだだけの価値はあるって思わせてよね!」
「メグ……みんな」
カロスの言葉で放たれた応援を、コウライ、ヒナタ、そしてポケモンたちが受け止める。
「ではトレーナーは所定の位置へ」
「はいっ」
「チャリザードU-20ヒヨク大会、決勝は――コウライ対ヒナタ。はじめ!」
最後に場に残ったのは、ウォーグルのヤマトと、ジャローダのリジーであった。メグにも、隣で見ているゴチルゼルのごっさんにも、馴染み深い仲間たちだ。
「やばいめちゃくちゃ燃える」
「ごちゅ」
メグはコウライの、ごっさんはヒナタの応援旗を握りしめる。アウェーの地でこんな対戦カードが見られるとは。
「相性ではヤマトが有利だけど、ヒナタとリジーはそんなに簡単に勝たせてはくれないよね」
かけ声はなしにして、メグはカロス人の仲間たちと、オリジナルのチャントで応援した。
コウライ ヒナタ その名前
カロス地方に轟かせ
どっちが勝てるか決勝戦
我らが見守る決勝戦
「リジー、とぐろを巻く」
ヒナタの指示で、ジャローダは優雅な動きで集中力を高め、弱点であるはずのブレイブバードに耐えた。
「そのままリーフストーム!」
タイプ相性があるとはいえ、草タイプの中でも屈指の高威力技だ。ウォーグルの様子を見る限り、ダメージは確実に入っている。
「とぐろを巻く、攻撃と防御と命中率を上げる技。それでブレイブバードに耐えたとなると、ヤマトの技選択はかなり狭まってくる」
「ブレイブバードの反動もあるし、馬鹿力を出せばさらに攻撃力は下がって決定力に欠ける……と」
観客も分析を交えながら見守る。まだまだ応援するよ、とメグが声をかけると、また応援のチャントが歌われだした。メグは内心コウライに勝ってほしいと思っていたし、厳しい戦況に目を逸らしたくなることもあったが、チャントを歌っているとはやる気持ちを抑えられる。応援は自分のためでもあるのだ。
「っし、仕方ねえ。ヤマト、フリーフォール! 角度に気をつけろ」
ウォーグルは、ジャローダの身体に逆に締め付けられないような角度を見計らい、両足でジャローダを掴み、飛んだ。
「もっと高くだ! 高度で威力を補うぞ」
「そんなことしてええの? リジー、ソーラービーム!」
「げ」
身動きが取れなくとも、光を吸収することならできる。
かなり高くまで飛んだところで、コウライが降下を指示する。ほぼ同じタイミングで、ジャローダは光を吸収し終え、天――即ちウォーグルに向けてビームを放つ。
視認が追いつかぬ間に、地上で爆発音がした。コウライにとっても、ヒナタにとっても博打であった。
「どっち……どっちだ!?」
観客たちが見守る中、砂埃が去った後、立っていたのは――ウォーグルのヤマトだった。
「ジャローダ、戦闘不能。ウォーグルの勝ち、よって、チャリザードU-20ヒヨク大会、優勝者は――ライモンシティのコウライ!」
「いよっしゃー!」
「やったやったー!」
晴天の下に歓声が響く。メグも思わず、ごっさんと、応援仲間とハイタッチした。
「本当に良い試合でした。この後表彰式に移ります。今後コウライ選手とヒナタ選手は一部昇格となります」
実況がその事実を告げ、二人とも昇格が決まっていたことを観客たちは思い出す。それぐらい、二者のトレーナーとポケモンたちは勝ちに拘り、最後まで燃えた試合だったのだ。
観客たちはコウライとヒナタ、そして健闘したポケモンたちを称える。
「敢えての二部ファンだったんだけど、これは一部の試合も観に行かなきゃだめかも。イッシュ行こうかなー」
「またカロスでバトルしてくれよな!」
「ヤマトもリジーも大好きになっちゃった!」
○
「ぐぬう」
「懲りないね!」
表彰式を終え、スタジアムから出てきたコウライは、メグに顔を近づけた。メグは手を立てて防ぐ。
「……あのさあ」
「……なに」
メグが返すと、コウライはこぶしを握りしめる。
「好きです付き合ってくださいってこの歳で言わなきゃダメ〜!?」
試合時の凜々しい表情とは一転、冷や汗を浮かべたコウライが言った。
「それ私に訊くの!? 今!?」
二人のやりとりをごっさんが笑う。結局こういう二人でしかないのだが、互いにイッシュ人なのだ、言外の意味を察するのは不得手。ならば言ってやるしかない。
「そうねー、私は−、なあなあで流すよりかははっきりしてる人がタイプかなあー?」
「……」
そう言って手をおろすと、コウライに抱きすくめられた。
「だ、だから、そういうとこ……!」
「愛してるぜ、マーガレット」
耳元で告げられ、思考が真っ白になった。相手の表情は見えない。こんなの反則だ、レッドカードで一発退場だ。しかし、抵抗できる強さだとわかっていて、ふりほどかないメグも確信犯だ。
「……これで満足かよ」
やや不安そうにハグをほどいたコウライがそう言うものだから、メグにも火がついた。ゴールを決められっぱなしで終わるわけにはいかない。
「コウライ」
こういう時に可愛い声が出ないものだ。自分でも驚くぐらい低い声で、コウライの顔に自分の顔を寄せた。それからあっさりめに口づける。
顔を離すと、コウライは唇を押さえて目を逸らした。やってやったのだ、とわかると、メグも自然と口角が上がる。
「卒業式までには帰ってきてよね」