新・曇りなき者(2)
2019/01/14(Mon)
サザランドの報告は、以下のように進んだ。
まず、彼はブラックボードに、セボハノ地域の略地図を書いた。五角形のようなシンプルな地図の一部を丸で囲み、斜線で塗りつぶして「Desert」と書いた。セボハノ地域はほとんどが砂漠なのだ。
「砂漠といえど、生き物や自然には恵まれている。私は地域住民の力を借りて、オアシスを通るルートを探検した。結果、今から描くような生き物たちが見られた」
サザランドは描画を進めた。その生き物は、スタートゥスの知る単語で表現するならば、象、である。サザランドは二体の象に似た生き物を描いたが、形相は随分と違った。
「こちらの生き物は、体色は概ねライトブルー。反対にこちらは、ダークブラウン系統の体色であった。しかし、不思議なことにこの二者は対立することなく、同じ群れで行動する様子も見られた。ここまで意見は」
「はい」
スタートゥスの隣に座っている女学生が挙手した。
「どうぞ」
彼女は起立した。
「メリル・ラエネックと申します。私が見るに、左の生き物は体型や顔立ちが幼いように思います。右の生き物の子供という可能性はないのですか」
「もちろんその可能性もある。しかし、哺乳類のおとなと子供でここまでの差異が出る生き物が見つかっていないことも確かだ。引き続き観察を進める必要があるね」
「有難うございます」
彼女、メリルは着席した。目は輝いている。前列に座り、真っ先に挙手するこの意欲、彼女の探検をしたいという思いは本物なのだろう。
「はい」
半ばメリルに感化されるように、スタートゥスも挙手した。
「では隣の君」
「スタートゥス・ドレイデンと申します。今後これら二種の生き物がキングダム地方の図鑑に登録されるとして、種族名の候補として考えているものはありますか。サザランド先生なら、セボハノ地域での呼び名を取り入れることも考えられると思いまして」
「君……そこを訊くかね」
答えにくい質問だったのか、サザランドは頭を掻いた。
「いや、目の付けどころはとても良いんだ。しかし……どうやらセボハノの人々には、生き物を種名で呼ぶ習慣がないようで、みな固有名詞で呼んていたのだ。同じ生き物でも、こっちはジョン、こっちはマックス、といった具合にね」
辺りがざわついた。スタートゥスは隣のリリガントを見る。こいつは定義されたその時からリリガント。何か別の名で呼ぶ発想すらなかったのだ。
「もちろん、人によっては種名以外のニックネームで呼んでいる場合もあるだろう。しかし、ポケモンとして定義されると、その地方では種名が共有される。それがだ、セボハノの人々は、同じ種族という認識すらない。ポケモンや他の生き物たちでなく、木の一本一本まで固有名詞が存在するのだ」
サザランドは、「Thinking」と言って話を止めた。一度立ち止まってじっくり考えてほしい、というサインだ。
難しい話だった。ピカチュウという概念が存在せず、木にもすべて名前がついた世界。キングダム地方が植民地化したからといって、文化が似通っているわけではない。
そんな異文化の場所に彼は飛び込み、それでも尊敬を集めているのだ。改めて偉業であるとスタートゥスは思う。
「はい」
もう一度挙手した。メリルが驚いたようにこちらを見てくる。
「ドレイデン君」
「私は医学部生です。ポケモン医学も最近では注目されていますが、彼らがポケモンを固有名詞で呼ぶということは、図鑑を作る列強で同じ種とされていても、治療法などで違いが出てくるということですか」
「鋭いね」
サザランドが一言。隣でメリルが静かに拍手した。
「確かに、私が見た限りでは、同じ種族の同じような症状でも、セボハノ人は違う木の実で治療をしていた。我々が普段口にする木の実のうち、ポケモンの体力やその他様々な症状を回復促進させるものがあるというのは周知の事実だが」
サザランドは黒板に三種の木の実を描いた。彼はまず、イチョウ型の実を指す。
「例えばフィラの実。はるか昔、原産地のトルバやショウエネからセボハノに伝わったものと考えられる。食べてみると非常に辛い」
そして次に、雫のような形をした実の絵を指す。
「これはマゴの実。我がキングダムを中継とする植民地貿易でセボハノにもたらされたものだ。こちらは打って変わって甘い。そしてこちらが」
最後に、サザランドは釣鐘型の実に関して解説した。
「バンジの実。これは苦い実だ。セボハノ人は、ポケモンの体力を回復させる際、よく知られたオレンの実よりこれらをよく用いていた。種族にとらわれない、個々の味の好みを理解して、だ」
「なるほど!」
感嘆の声が講堂のそこここからあがる。そのうちの一人が挙手をした。
「では、多くの植民地をもつ我がキングダム地方は、それらや他の木の実を植民地貿易で得て調査をし、ポケモンの味の好みからくる、種の先の個々の違いを深く研究できる、と」
「その通り。では時間だ。各自で振り返る時間としよう。最後に、キングダム地方でのポケモン研究が持続可能な方法で進められることを望む、と強調しておこう」
<地方名をお借りしました>
・トルバ地方(エジプト。咲さん作)
・ショウエネ地方(トルコ。合同)
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