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新・曇りなき者(7)※完結
2019/01/19(Sat)
 絆橋、ボンドブリッジが完成し暫くして、スタートゥスとナオミはカントー本土に渡り、タマムシの大学へ通った。そこで残りの過程を履修し、正式な医師となり、研究もまとまってきたある日、スタートゥスはその知らせを聞くことになる。
「先生が……?」
 スタートゥスがあの講義を受けて三年。クルアラン・サザランドは、探検中に帰らぬ人となった。死因は現在のところ不明であるという。
 講義でも、ロンドの港でも、スタートゥスを激励した人だった。いつか、礼が言いたいと思っていたのに。
 手を組んで祈れば、思い出すのは青春の日々。両親の最後の愛、手紙を送り合った友、そしてかけがえのない師。
 地上は問題だらけだ。植民地や他地方との緊張関係など、昔のようにはいかなくなってきている。
 それでも、だ。
 地に足をつけた医療活動が、今後の人間、そしてポケモンたちに良い兆しとなるように。
 その行動こそが、真の恩返しとなるように。
 スタートゥスは、ただ祈った。

 ○

「カロス地方の東部植民地に」
「ええ」
 決意だった。キングダム地方のフォードックス大を卒業したメリルは、学問的知識を養ったキングダムではなく、故郷カロスに尽くすこととした。
 世界情勢は目まぐるしく変わる。そんな中で、カロスとキングダムの関係も今後どうなるかわからない。
「だからここも最後なのよねー」
「……あまり感慨深さというものを感じないのだが……?」
 カストルノと並んで座り、アイスクレープを食べるメリルを見て、流星の宿の主は率直に言う。
「……まあ、探検家に感傷なんて不似合いだし?」
 師を亡くした。手紙のやり取りをした友人も、今ではどこに行ってしまったのかわからない。しかし、「No news is good news.」、無沙汰は無事の便りとも言う。ならば、世界のどこかで奮闘する友の無事を信じるだけだ。
「時にオーナー、これ、ポケモンとシェアしたら良いと話してたけど、カストルノと分けたらすぐ無くなっちゃったわ。おかわり頂ける?」
「本気で言ってるのか?」

 ○

 待ち合わせはグラスコシティ。
 その前に、長女さんがロンドまで迎えに来てくれていると聞いて、二人ははやる気持ちを押さえつつロンドの港を進んでいた。
「まさか、サクハで出会えるなんて」
「全くだ」
 サクハ地方フロンティアブレーンのエーデルワイス・ドレイデンと、同四天王、ラエネックの曾孫ホウセン。何の因果か同じ地方でポケモンバトルに関わる職に着いた二人は、休日を合わせやってきた「後発組」であった。エデルのポケモン、カモネギも、落ち着かないのかボールの外に出ている。
 先発組は即ち、エデルの家族(もちろん、ラプラスとドレディアも一緒だ)とホウセンの家族(ビーダルもいるのだという)で、既にグラスコに着いているとのこと。
「これでようやく読めるわけか」
「スタートゥスの論文……話を聞いたときはまさか、と思いましたけど、書斎を漁れば意外とあるものですね」
 提案者はホウセンであった。メリル・ラエネックはカロス東部植民地を平和的に探検した女性として、サクハでは名が知られているが、探検にまつわること以外の手記などは出版されていない。大学在学中にスタートゥスとの交流が途絶えたラエネックは、第二移民の男性と恋に落ち、サクハに永住してからも、スタートゥスの論文を読んでみたかった、とのことだ。
「二家族なら東洋で叶いますが、やはり共通の師がいたとなりますと」
「提案に提案を重ねてくれたわけか」
 スタートゥスもメリルも、サザランドを模範としていたことは後世にも伝わっている。サザランドは探検先で命を落としたが、彼の家族はグラスコに戻り、以後名家であり続けている。
 3の島に戻り開業医となったスタートゥスとナオミは、はじめ「ドレイデン・ホシノ医院」を開業したが、のち省略されドレイデン医院となった。その後、ドレイデン家では何人かがミドルネームに「ホシノ」と付けられ、現在はエデルが兄のブバルディア・ホシノ・ドレイデンがその例である。
 待ち合わせ場所の噴水広場にたどり着いたところで、「後発組」を待ち受ける影がふたつ。
「エーデルワイスさんとホウセンさんですね」
 堂々とした佇まいで声をかけた少女がいた。丸い眼鏡をかけていて、隣にはジヘッドがいる。
「このような集まりをご提案頂き有難うございました。私こそがアヴィロン・サザランドです」
「よろしくね」
「よろしく頼む」
 百二十年の時を超え、その子たちは、「再会」を祝う固い握手を交わした。
 



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