面影纏う騎士


 かの石好きなチャンピオンにキーストーンを授かって、何かお礼をと渡した終の洞窟で見つけたそれは、君が持っていたらと返されてしまった。
「僕が持っていても仕方が無いと思ったんですけど」
「でもそれを拾ったのは君の選択だろう。間違っていないんだ、君の直感は」

 彼の言葉の真意は、果たしてニダンギルがその石に触れた時にわかった。
 二本の剣の閃きは、さらなる強化を暗示した。ヒトツキからニダンギルへの進化も驚いたが、ニダンギルの進化後の姿は、想像を凌駕していた。
「ギィルル」
「……え」
 どうやらこのポケモンはギルガルドというらしい――と確認したところで、ショータは二重の意味で仰天した。
 剣が再び一本となり、盾が増えたことだけではない。
 ニダンギルの時は二本分の声が聞こえたが、今は一本分しか聞こえない。
「なんで……」
 そう零すショータに対し、ギルガルドは返事をしない。
 少し考えればそうかもしれない、とショータは思う。剣は一本しかないのだから声も一本分で何らおかしいことはない。では、もう一本の人格はどこへ行ってしまったのか。
 ショータにつられ、ギルガルドも不安そうな顔をする。トレーナーである自分がしっかりしなければ、と、ショータはメモを漁った。
 似たような話を聞いたのだ。それもあの人から。
「あった。メタグロス……二匹のメタングが合体して進化したポケモン。脳みそは四つあり計算の早さはスーパーコンピュータ並で……」
 メモを読みながら、その時の彼とメタグロスの様子を思い返す。
 その前はダンバルが二匹合体したなぁと言っていたとか、本当にそんな計算ができるのか人間にはわからないことも多いけど、このメタグロスもオンリーワンな存在なのだと笑っていたこととか。
 人間にはわからないことも多い。
 それは他のポケモンにも当てはまることだ。
 振り返ると、ギルガルドの剣は盾にすっぽり収まっている。その様子を見ておかしさは感じない。トレーナーである自分が戸惑っているだけで、ギルガルドはすべて腑に落ちているのかもしれない。
「君の盾、触ってみてもいい?」
「ギル」
 それを肯定と受け止めて、ショータは一歩一歩ギルガルドに近づき、触れた。
 きんとした冷たさが掌に伝う。しかし感じたものは、守ることを覚えた者の強さだった。
「……そうか、ギルガルド。君は」
 護る者のために、役割を分かちたのか。
 ヒトツキやニダンギルは、かつて王が連れ添ったポケモンだという話をふと思い出した。民衆を導く王の気持ちに応えようと、新たな強さを身につけた姿なのだとしたら、今こうして人とポケモンとして向き合っていることが、とても尊きことのように思える。
 ここカロスの地が王政でなくなっても。
 深き洞窟にて石を探し出すトレーナーを待っているのだとしたら。
「僕はあなたに石を与えて進化させました。僕は王ではありません。それでも……一緒に戦ってくれるというのですか」
 ショータの問いに、ギルガルドは一つの声で返し、ふわりとショータの手をとった。



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