向かい風を追い風にできるか
――我らスカイトレーナーと、スカイバトルをなさいますか?
この台詞を考えた人は、実はさみしがりだったんじゃないだろうか。
滞空が容易なポケモンでないとスカイバトルはできないし、それに複数匹手持ちに入っていないと、勝つのは難しい。よって、スカイバトルを極めるトレーナーは相当な物好きということになる。
私はその中でも物好きな部類だと思う。なぜって、飛行タイプで弱点をつけるポポッコを一番手にしているのだから。
その日は晴れだった。ハネッコから進化したばかりのポポッコは、日差しをもっと浴びようと、高いところへ行ってしまう。待ってよ、と呼びかけてもしらんふりだ。
ハネッコだった時はあんなに危なっかしかったのに、とちょっと前までの出来事を思い出しつつ、私は木によじ登った。
「ポポッコ、おりておいで」
その時だった。私の前を小さなポケモンが通った。
と思ったらまた一匹、そのまま一匹、と数を増し、いつの間にか私は囲まれていた。
この木に、ミツハニーの巣があったのだ!
「や、やめ」
ミツハニーが使える技なんてほとんどないことは知っていたから、私は木の幹にしがみついた。“風起こし”が来る!
中心である私に向かって、四方八方から風が襲い掛かる。おりることもできない私は幹だけは手放さないようにし、恐怖から目を閉じた。
突風に耐え続けていると、目を閉じていてもわかる、別の風が吹いてきた。
これは。
(ポポッコ……?)
騒ぎを聞きつけたポポッコが、私を助けるためにしてくれた技は“妖精の風”だった。
ミツハニーがポポッコのほうを向く。ミツハニーのタイプは虫と飛行。ポポッコには不利だった。どうすれば……。
木がさぁっと揺れて、木漏れ日が私を照らした時に、ひらめいた。私は、ミツハニーがポポッコに気をとられているうちにそっと木からおりて、ポポッコに指示を出す。
「お花は、太陽のほうに向けていて!」
「ポポッ」
ポポッコは二つ返事で答え、“妖精の風”を吹かす。ミツハニーたちが“風起こし”で反撃する。するとポポッコは高いところに逃げて、“光合成”で体力回復。
そんな一進一退の攻防を繰り返し、ミツハニーたちも、ポポッコも、そして私も、へとへとになってしまった。
ミツハニーがよろよろと木に戻ると、彼らを束ねるビークインが姿を現した。
「あなたが」
私はついかしこまった。というのに、私の身体は擦り傷だらけで、とても女王様たる存在に向けられるものではない、と思うと少し縮こまってしまう。
「ビークインさん、ごめんなさい。私、巣を襲いたかったんじゃなくて」
私が、ビークインたちに伝わるのかはともかく、必死に弁解しているというのに、ポポッコはまた太陽を求めてのぼってしまう。
「あ、待ってポポッコ!」
私がポポッコを見上げると、ビークインは笑い出した。
「クイッ、クイン」
そして、子供を見るような目でポポッコを見つめた。どういう経緯で私が木に登ったのか、わかってくれたようだった。
「それから、この子たちきっと疲れてるから、あまり無理はさせないであげてください」
私が言うと、ビークインはゆっくりと頷いた。
それから、私たちはスカイトレーナーを目指すことにした。ポポッコも私も、ミツハニーに危機を感じつつも戦いそのものは心のどこかで楽しんでいたのだ。
今日も挑戦者がやってきた。
私はまだまだ初心者だけど、私はこの言葉に助けられる。こんなニッチなことをしているのが、私たちだけではないと思えるから。
「我らスカイトレーナーと、スカイバトルをなさいますか?」
131106