+ 心地よい時間 +


「おいヒカリィ! 待ち合わせ時間に遅れたな、罰金百万円だ!」
 あたしはその言葉を投げかけられても、怯むことなく彼の隣に座った。いつもの、ジュンの口癖だ。
「冗談だってわかってるの。今までの分全部合わせたら、どのぐらいの額になるんだろうねー」
 雪をかぶった針葉樹を見ながら、あたしは言った。吐息で一瞬、視界がぼやける。
「知らねーよ、そんなもん。いつだって言ってるんだし……つーか、ヒカリは遅れすぎなの!」
「ごもっとも。以後気をつけます」
「こいつ、ぜってー気ぃつけないぞ」
「よくわかってんじゃん」
 あたしは朝は苦手。まぁ、本気出せば早起きできないこともない、と思う。
 でも、このやりとりが好きで、ジュンをつい待たせてしまう。
「もし、それが冗談じゃなかったとして」
 あたしはそこで、ジュンの顔を見た。
「莫大なお金を払うことになったら、いつまで待っててくれるの?」
「は?」
「もしも、の話。一生、一生待ってくれる?」
 あーあ、なんであたしはこんな話に必死になってんのかな。これじゃジュンと同レベルじゃない。
 相手も冗談だってわかってるから、別に返事は求めなかったけど、彼はあたしの手をとって、こう言った。
「待つよ。一生」
 その時、あたしの中で、小さくなにかの音が鳴った。
 距離がない友情。あたしたちはそんな関係だと思っていた、なのに。
「……あのさ、もしもの話って言ったじゃない? そんな高額、払うわけないじゃない」
「自分から言っといて、なんだってんだよ……。んなことわかってるって!」
 ジュンはそう言って、あたしの手をぱっと離した。また、冷気が手に吹きかかる。手袋持ってきたらよかったかな……。
「んー、まぁ、そうね、あたしの気が向いたら払ってあげてもいいかな。どうせあたしは、今にシンオウ一のセレブになるんだし!」
「なれるか」
「なれる! あ、借りてるわけじゃないんだから、勝手に金額上げないでよ。んじゃ、今日もフロンティア攻略といっきますかー」
 あたしは元気よく立ち上がって、各施設を眺めた。ジュンも私に続く。
「丁度お金の話したし、今日はキャッスル日和! ってとこかな」
「そっか。オレもまだキャッスルは全然だしな、よし出発! ……って、ヒカリ階段上るの、遅っ! 十秒以内につけないと罰金百万円追加な!」
「わーったわーった」

 いつまでも待ってくれるなら、少しずつ待たせたっていいでしょ?