アナタのホームグラウンド


 みんな出ておいで、と呼び、フウロはモンスターボールをマガジンから取り出して投げた。
 ジムバトルではなく、もっとプライベートなバトルをするポケモンたちまで出揃い、なかなか壮観だ。だが、フウロはポケモンたちを見て、首を傾げる。そこには三つの綿をつけた丸っこいポケモンがいなかったのだ。
「ワター」
「あー、忘れてた」
 そのポケモン、ワタッコは、ジムの壁際に追いやられ、連続してやってくる強風に逆らおうと、綿を器用に動かしていた。
「ジム改造したんだったー。確かにこの設備はワタッコにはつらいよね」
 そう言いながらワタッコにボールを向ける。だが、なんとか壁から離れても、次の強風が来ればまた壁に追いやられてしまうワタッコがどうにも可愛くて、ボールのスイッチを押すのをためらってしまう。呆れたスワンナに声をかけられ、ようやくフウロはワタッコをボールに戻した。
「ここじゃみんな集まれないかー。だからといって、滑走路で集まるのは邪魔になるし。空地まで歩こうか。あ、みんなは飛べるんだったね」
 ポケモンたちは笑う。フウロは、強風が吹けば、すぐジムの入口まで戻れる場所に立ち、そのまま風に乗る。いっちばーん、と言うと、ポケモンたちもこぞって入口まで飛んできた。
 外に出て、フウロは再びワタッコを出す。すぐにボールに戻さなかったため、ワタッコの綿は少しいたんでおり、フウロに不満そうな視線を向けた。フウロは、綿の形を整えるように、そのやわらかい綿を撫でる。
「ごめんごめん、ワタッコはジムで活躍できなくても、PWTがあるじゃない。アタシにとっては、どっちもホーム。またそっちではよろしくね」
 お姉さんらしさを意識して言えば、ワタッコの表情も少しだけやわらいだ。

130220