不器用な料理と最強のポフィン


 はい、とヒカリが差し出したのは、大人数用の弁当だった。今日はふれあい広場でのピクニックだったから、ポケモンの分も、と考えた結果だろう。
 ヒカリはあまり料理が上手いほうではない。幼馴染のジュンにとっては、料理が格別に上手い彼女の母アヤコと比べてしまうだけかもしれないが。
 三段の箱を分けて並べ、弁当箱をあける。うちふたつの中身はサンドイッチだった。
「どう、ちょっとは上達したでしょ?」
「ま、まあ……」
 ジュンが渋い顔をする傍ら、ドダイトスとエンペルトはもうひとつの箱に入っていたポフィンに喜ぶ。
「エンペルトもドダイトスも、たくさんめしあがれ〜。で、ジュンはなに、食べたくないの?」
「そうじゃなくて……なんで切ってからはさむんだ」
 サンドイッチは、中に野菜やハムをはさんでから切るものではないのか。料理なんてめったにしないジュンでも、それぐらいは知っていた。
「はみ出しまくり」
「そっかー、次からは気をつけるね」
 見た目が不恰好というだけで、味は普通のサンドイッチと大差ない。ふれあい広場を眺めながら、サンドイッチを味わった。
 その間にも、エンペルトとドダイトスはポフィンをたいらげる。ポフィンの腕だけは確かだとジュンも知っていたが、その中で、すっぱいポフィンだけが残ってしまった。
「あれ……」
「あー、すっぱい味が好きなやつは広場に連れてこれなくて」
「そっかー。じゃあ、ジュンが責任持って食べて。ちょうど黄色、ジュンの色だね」
「なんの責任だ……?」
 ジュンは甘党であり、この世で一番おいしいものは母が毎年作ってくれるお誕生日ケーキだと信じていた。ジュンはポフィンを見る。見た目は、サンドイッチと違っておいしそうだ。だがヒカリのことだ。レベルが高ければ高いほど、ポフィンは黄色くすっぱくなる。さきほどとは逆で、ヒカリのポフィンの腕を呪った。ポフィンをつまむ勇気が出ないまま、ヒカリがジュンの口にポフィンを滑らせる。
 とくに逆らうこともなく、ジュンはポフィンを少し噛んで、すぐ飲み込んだ。あ、大丈夫じゃん、と一瞬思ったのが嘘のように、直後にぷちぷちしたすっぱさが口内を襲う。
「すっぱ!」
 ジュンは首をつかみ、すぐそこにあったお茶を飲む。それでも苦しそうで、見ていたヒカリが、閉じない口に唇で応じる。
「ん、ヒカッ……なんだってんだよ!」
「ごめんね、一個だけでいい」
 短いキスの後、ヒカリが言った。

130218