後ろ姿は燃える瞳に似て


 俺の手持ちにワタッコというポケモンがいる。
 かっこいいポケモンが好きな俺でも、まずトレーナーは旅立つ前にはじめのパートナーを決めねばならない。そこで、俺はキキョウシティに住んでいたから、すぐ南、32番道路出身のハネッコをパートナーに選んだ。
 すぐに自分好みの超かっこいいメンバーを編成し、ハネッコははじめのうちだけ手持ちに入れておこうと思っていた。そのはずが、思いのほかなつかれてしまい、結果常に持ち歩く六つのモンスターボールのうち一つはそいつが入っている状態が続いている。

 うん、見た目は全然好みじゃないな。
 俺はワタッコを見下ろして思う。後からメンバーに加えたバンギラスやメガヤンマのほうが断然俺の好みだ。
 見下ろされるのが不服なのか、ワタッコは綿をくるくる動かして宙に浮き、俺の目線に合わせてきた。小さな目だけ見れば、燃えるように赤い。
 だが、むっとした表情は凛々しくもなんともない。俺は一番上の綿の生え際にある葉っぱを一つつまんだ。
「ハネッコん時あんだけ立派やった葉っぱが? こうなったん?」
 挑発的な口調を意識して言う。
 ハネッコの時は、二つの長い葉は俺の腕に絡むほどだったし、ポポッコに進化すれば、大きな黄色い花を開花させた。
 それに比べ、このワタッコというポケモンはなんだ。綿なんて、花の残りかすのようなもんだし、葉っぱなんてちょろっと生えているだけだ。
「ッコ!」
 ワタッコもその言葉にはへそを曲げたのか、ぶんと綿を振り、俺の顔にぶつけてきた。勢いで前髪がなびいたが、その感触はあくまでも柔らかい。
「あーはいはい、綿のおかげで、変な場所に飛ばされなくなりましたね、自分で好きな場所に飛べるようになりましたねー」
 綿の感触にむせつつも言う。好みでなくても、トレーナーとポケモンという距離感がほぼないワタッコはいいパートナーだった。

 ○

「いくぜ、ワタッコ」
 そんなワタッコだから、バトルフィールドに立つ機会はほとんどない。だが、飛行を弱点とするポケモンが相手の時なら話は別だ。
「“アクロバット”」
 持ち前の素早さで風に乗り、その技を繰り出す瞬間の後姿、それだけは少しかっこいいと思う。

130217