Stage 1 : 旅の始まり


 二人と二匹は、ほっとため息をついた。チョロネコはレベルが低かったようで、こちらとしては大助かりだ。
「でも何でこの子たちがここに……? どう見てもシヨウカ博士の研究所の二匹だよね」
 ミズホがそう言った時、南から声が聞こえてきた。
「おーい! そこの君たち!」
 ぴったり真ん中わけの茶髪に白衣。間違いなくシヨウカ博士だ。
 シヨウカ博士は、サクハ地方のポケモンの生態系について研究している、ハツガタウンのポケモン博士だ。ヒロトやミズホも、幼い頃から研究所に遊びに行っては、アチャモやキモリ、そしてミズゴロウと遊んでいた。
「大変だー! 君たち、キモリとアチャモとミズゴロウが盗まれたんだ! ……って、ひょっとして、君たちが取り返してくれたのか?」
「取り返したというか、キモリとアチャモはここでチョロネコに襲われてたんです」
「えっ チョロネコだって!? チョロネコはサクハ地方にはいないはずだ……それと、ミズゴロウがいないようだが」
 ヒロトとミズホは後ろを振り返った。お互いミズゴロウは見ていない。
「ああ……なんということだ」
 博士はひどく落胆したようだった。
「いや、君たちは気にしなくていい。私の責任だ」
「アチャ……」
 アチャモやキモリも寂しがっているようだ。
 二匹は、なんとかジェスチャーであったことを伝えようとした。
「キャモ、キャモモ!」
「別れたの? ミズゴロウと?」
「キャモ!」
 ポケモンの言葉の全てを、人は理解できない。が、二匹によると、どうやらミズゴロウは盗まれ、自分たちは放置されてしまった、ということのようだ。
「犯人はもとからミズゴロウ一匹が目当てで……?」
「だからって残り二匹をこんなところに放置してチョロネコに襲わせたりするか? ずいぶん非常な人間だな」
「ともあれ、その二匹はもともと君たちにあげると約束していたポケモンだ。こんな形になってしまって申し訳ないが、これがアチャモとキモリのモンスターボールだ」
 博士は、ヒロトとミズホにモンスターボールを手渡しした。
「一緒にチャンピオン目指そうぜ、アチャモ!」
「旅に出ましょう、キモリ!」
 もともとその二匹のためのボールであるため、ボールが揺れることもないし、ポケモンがボールから出てきて捕獲失敗になることもない。
 だが、少年と少女にとっては何もかも新鮮だった。

 一行は一度研究所へ行った。博士は金庫らしきものの鍵をあけ、中から出してきたものを二人に渡した。
「これが噂の」
「ポケモン図鑑!」
「あっもうー! 言おうと思ってたのに!」
「もともとは研究者仲間が考案・開発したものでね。私がサクハ地方用にマイナーチェンジしたんだ。研究所でポケモンたちと戯れる君たちを見て、図鑑を託そうと思っていたんだ」
「あっ、ありがとうございます!」
 さらに、博士は二人に、旅に出る数日前に発行手続きをしていたトレーナーカードを渡した。それから、博士は続けた。
「もしミズゴロウを見かけたら教えてくれないか?」
「当たり前ですよ! というより、ミズゴロウを見つけないとアチャモが怒りますよ!」
 ヒロトはそれだけ言って、研究所を出た。
「おーい! せっかくポケモンを貰ったんだ、家にも寄った方がいいぞー!」
「わかってます!」
「わかってないような気がするけど……博士、色々ありがとうございます。私も一度家に寄ります」

「もしもし。……ああ、私だ。実は今日こういうことがあってな」
 誰もいなくなった研究所で、シヨウカ博士は電話の相手と話しはじめた。

⇒NEXT