Stage 10 : ネオンと熱気のカゲミシティ!


 悪徳の町カゲミシティ。
 かつてサクハを牛耳っていた者が住んでいた中心街の市壁を、カジノとゲートに変えてしまったギャンブルの聖地だ。
「わぁー……カラフルだなぁ」
 数多のネオンに、ヒロトは圧倒される。ワカシャモは目をちかちかさせた。
 カゲミシティは、ネオンが光るゲートに囲まれた巨大娯楽施設を中心に据えている。ポケモン関連の施設もほぼその中に集まっており、ジムはその中のひとつだ。
 目の前の、星やポケモンの絵が散りばめられたゲートから入ると、受付の者がヒロトをじろじろ見た。
「……えっと?」
「ドレスコードってやつだね。君、トレーナーカードは?」
 ヒロトはポケットからトレーナーカードを出し、受付の者に見せる。
「はいトレーナーさんね。オッケー、通って。ここに入れる施設が書いてある」
 受付の人はヒロトに薄いパンフレットを渡した。
 カジノ、タワーホテル、コンテストにジム。過去のなごりで悪徳の町と呼ばれるが、このゲートの中の施設はどうやら富裕層をターゲットとしているようだ。
「まずはやっぱりジムだな!」
 カゲミは、ヒウメのように道路が整然としているわけではない。道路標識を見るより、パンフレットの写真を見て、それと同じ建物を探したほうが早い。
 カゲミでは、ジムの形も独特であった。ヒロトが今まで見てきた、クダイジムもヒウメジムも、外装はシンプルなものであったが、カゲミのジムといえば、なんと巨大な花をつけたポケモンの形をしていたのだ。
 その毒々しい赤紫色の花は、町を見回すとすぐに見つかった。もちろん、巨大な花はネオンで装飾されている。そういえば、ナゾノクサに少し似ているような気がしないでもない。
 道路事情は知らないが、ヒロトはその場所を視界にとらえながら歩いていくことにした。

 ヒロトがジムの前にたどり着くと、そこには人だかりができていた。
「ねぇ、今日ジムやってないよー」
「後から開くんだろ、わりといつものことだぞ」
 旅のトレーナーや地元民の話を聞く限りでは、このジムは今は開いていないらしい。
「それじゃあ、ジムリーダーはどこに?」
 ヒロトは、一番近くにいた少年に話しかけた。
「コンテスト会場だろうな。あの人コンテスト好きだから」
「へぇ、コンテストもやっちゃうジムリーダーか……で、コンテストってなに?」
 ヒロトの言葉に、少年は肩を落とす。
「知らないのかよ!」
「名前は知ってるけど」
「コンテストっていうのは、ポケモンをドレスアップして、ショーや技によるアピールで競い合うイベント。俺は興味ないけど、カゲミじゃカジノの次に人気だぜぇ」
「なるほど、ちょっと楽しそうだな!」
「興味あるなら会場も行ってみれば? 俺はここで待ってるけど……。あ、あの建物な」
「ありがとう、行ってみるよ」

 コンテスト会場は、まるでびっくり箱のような形をしていた。立方体の建物の上で、おしゃれをしたポケモンをかたどったアドバルーンが風に揺られている。
「おお、少年、ラッキーだね! ちょうどカゲミのジムリーダーにしてトップコーディネーター、ライラックさんの出番だよ」
「えっ、本当ですか?」
「うん、はいチケット! ポケモンちゃんの分もつけてるからね、ほら始まるよ、行っておいで!」

 ヒロトはワカシャモとともに、空いていた後方の席に座る。見晴らしは十分良い。
「ハァーイ、みんな元気かなー?」
「ウォーーイ!」
「今日もワンダフルなメンバーで、コンテストはじまっちゃう! まずコーディネーターの紹介をするわね!」
「イエーーイ!」
 思った以上に客はのりが良く、ヒロトは呆気にとられた。それを見ていた、隣の席の少女がヒロトに話しかける。
「あんた、旅のトレーナーでしょ?」
「うん。ハツガタウンのヒロト」
「ヒロト、ね。私はラリサ、よろしく! ここね、おっかしいのよ、私はミナモやヨスガにもコンテストを見に行ったことがあるけど、ここは照明もアピールもお客さんも独特なのよねぇ」
「うんかなり独特だぞ……」
 ラリサのひらひらしたリボンやスカートを見ながら、ヒロトは返した。
「それでも、最後にはみんなテンション上がっちゃうの! それはきっとあんたもそう。保障するわ!」
「みゃおー!」
 彼女にだっこされていた、これまたひらひらのドレスを着たピンクのポケモンも元気に言う。
「そ、そうかな! 楽しそうではあるね!」
「そうそう! あ、それと、あの司会者さん、実は男の人なのよ」
「えっ……」
 ヒロトは司会者を見て絶句する。
「そ、そういえば身長が高いような……!」
「でしょ? あ、コーディネーターさんたち出てきた! キャーライラックさーん!」
 ラリサはステージに向き直り、ジムリーダーの名を叫ぶ。ヒロトは、どうやらジムリーダーはエントリーナンバー2の、前髪だけが金髪で髪型全体は紫の長めのボブヘアー、そして長く広がる三角形のようなドレスを着た女性だということがわかった。
「ほーら、どうせあんたもライラックさん目当てなんでしょー?」
「まあな。ただ、僕はバトルがしたいんだけど」
「それももちろんわかってる! コンテストじゃ技アピールもあるんだから、今のうちに予習しときなさいっ」
 そうか、とヒロトは思う。ワカシャモも顔をきりっとさせる。ライラックのポケモンが使う技を見ておくことは、十分ジムバトル対策になりうるだろう。
「エントリーナンバー2、ライラックのポケモンはぁー、みんなのアイドル、ラフレシアーッ!」
「ライライー!」
 そのポケモンは、モンスターボールから飛び出し、大きな花びらをひらひらさせながら華麗に一回転した。花びらにまぶされたキラキラパウダーが輝く。
「可愛いほうだわっ!」
「あのポケモン、カゲミジムの外装……!」
「そうそう、ラフレシア! サクハじゃ雨季にしか会えないポケモンねっ」
 そのポケモンは、見れば見るほどナゾノクサに似ていた。目元なんてそっくりだ。
「ナゾノクサ、そーっと出てこい」
 ヒロトは膝の上でボールのスイッチを押す。ナゾノクサは、言われた通りそっとボールから出て、ヒロトの膝の上に座った。
「あら、ナゾノクサじゃない。ラフレシアの進化前ね」
「やっぱり? ほらナゾノクサ、あのポケモンだよ」
「ナーゾー……」
 ナゾノクサはいつもの調子でラフレシアを見る。
 少女は、他のポケモンたちは、左からイワパレス、ドンファン、キリンリキというのだ、とヒロトに教えた。ヒロトは、昔読んだ絵本に出てきたキリンリキだけはしっかり知っていた。
「はい、それじゃ一次審査に移るわよー! みんな、手元のボタンをぽちっとしちゃって!」
 前の席の背中側に備え付けられた四つのボタンが光る。四つのボタンにはエントリーナンバーと対応した数字が振られていた。
 ヒロトはもう一度ポケモンたちを見る。やはり目を引くのは、上品な輝きをたずさえたラフレシアだ。ヒロトは迷わず「2」を押した。
「はーい終了、ありがとう! 集計は、裏方のたのもしーいスタッフちゃんたちがやってくれるからね。それでは二次審査、ショーに移りましょう!」

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