いったんポケモンたちは上手にはけ、舞台は暗転した。楽しみだね、今日はどんなのかな、と観覧者がざわめき出す。
「あの、ショーって?」
「会場にある小道具を借りて、ポケモンが一分間のショーをするの。コーディネーターの指示がものをいう審査で、三次の技アピールに比べると、コーディネーターの力量が問われるところでもあるわねっ!」
なるほど、とヒロトは唸る。強いポケモンを持っていようが、トレーナーの的確な指示がなければ勝つことは難しいバトルと同じだと思ったのだ。
まずはエントリーナンバー1、イワパレスのショーが始まった。
イワパレスは小さなハットをかぶり、身体にはキラキラパウダーをまぶしていた。近くで見ると輝いているのかもしれないが、遠くから見る限りだと、わりと地味な印象を受ける。
「ミュージック、スタート!」
音楽が鳴り始め、イワパレスはゆっくりステップを踏む。
明るいジャズに軽快なステップが乗り、観客を盛り上げた。
「すごいな。イワパレスって、ああいうこともできるんだ」
「コンテストだからね。あの身体がそのまま前後左右に動くってアイデアもいいと思うわ!」
ステップはだんだん複雑になり、音楽も最後の盛り上がりのところまでくると、イワパレスはそこで、一度縮こまった。そしてそこから、“からをやぶる”で岩々を砕け散らせる。
「わー、キラキラしててきれいだな!」
キラキラパウダーはこの時のためだったのだとヒロトは実感する。
「ここまで高く岩が飛ぶのもすごいわー。あのイワパレス、なかなかやるわねっ!」
舞台裏で指示をしていたトレーナーがステージに立ち、ずいぶん小さくなってしまったイワパレスとお辞儀した。会場は拍手であふれる。
「さーて、次はライラックさんね! 今日はどんなのか楽しみだわー」
ラリサが目を輝かせて言う。
「やっぱライラックさんはこれ以上……」
「期待してて損はないと思うわ!」
しばし時間を置き、エントリーナンバー2、ライラックとラフレシアの出番になった。
「あれ、音楽なし?」
「しっ! 演技はもう始まってるの」
照明はさきほどよりも控えめだった。ラフレシアはきれいに足をそろえて歩く。上品に見せたと思えば、不敵に笑い、“溶解液”を放った。それと同時に、音楽が鳴り始める。
「毒技なのにっ……すごいきれいに見える」
「角度や威力が計算されているからよ」
ラフレシアは、ステージに散らばった液の上を滑り、バレリーナのようにくるくる舞った。その間も、大きな花弁をひらひら動かすことを止めない。その立ち振る舞いから、全身に精神が行き届いていることが、コンテストをあまり観ない観客にもわかる。
最後には、?はなびらの舞?で、明るい桃色の花弁を暗闇に浮かばせる。やがて花弁は溶解液に溶けゆく。そこにラフレシアが静かに座ってウインク。それがファイナルだった。
「い、色っぽい! けど、これは好みが分かれるところだわ!」
「いやでも、すごいよ。ラフレシア、なにもつけてなかったでしょ?」
「そうね……ポケモンの技とテクニックだけでできてた。ライラックさん、また一段と腕を……!」
ライラックが出てくると、またさっきのように拍手が起こった。
その後第三審査も終え、優勝はライラックとラフレシアに終わった。
ヒロトは感心するとともに、自分の目的を思い出した。
「あ、そうだジム戦!」
「そうか。ヒロト、旅のトレーナーだもんね。ライラックさんは出待ちしてたら会えるんじゃないかな。私も一緒に待っててあげるっ」
ライラックは、それほど待たずに出てきた。
「あ、ライラックさん!」
ヒロトが彼女をすかさず呼び止める。
「僕、ハツガタウンのヒロトと言います。都合のつく時にでも、是非ジムバトルを」
「なるほど、ジムハトル。で、君バッジいくつ?」
「えーと、二つです」
ヒロトはバッジケースを見せて言った。ライラックはそれを受け取らずに、顎に手を置いて見つめる。
「へぇ、ラッシュバッジにシンゼスバッジ……二つじゃちょっとねぇ」
「えっ」
「私は、今のジムリーダーの中でもかなり長くやってるほうだから。せめて三つは持っておいてほしいわ」
「そんなぁ……」
落胆したヒロトを見て、ライラックが続ける。
「そうねぇ。ここからだと、ホウソノシティのオモトー、イゲタニシティのラナン。彼らのどちらかを倒してから来てくれたら、相手してあげるわ。もちろん二人とも倒してからでもいいけど」
「本当ですか?」
ヒロトがタウンマップで二つの町の場所を確認して言う。
「ヒロト、残念だったね。でも、次の目標ができたわね!」
ラリサがヒロトの方をぽんとたたくと、ライラックが彼女に目を向けた。
「あら、ラリサ。今日も来てたのね」
「ええ。ライラックさん今日も素敵でしたよ」
「え、ラリサとライラックさんって、お知り合い?」
「うん、この前ライラックさん倒したのよ、ほら!」
そう言って、ラリサはラインストーンで飾られたバッジケースを見せる。ケースにバッジは五つ入っていた。
「えええええっ!? ラリサってそんな強いトレーナーだったの?」
「旅は興味ないから、たまーにチルタリスちゃんに好きな町に飛んでもらって、そこでひとバトルするだけだけどね!」
また会えたらよろしく、とラリサはウインクした。
関係ないかもしれないが、やはりカゲミシティというものはわからない、とヒロトは思った。割高のホテルで一泊し、翌朝ゲートを出て、タウンマップを開く。
「二つの町のうち、近いのはホウソノシティか……よし、こっちから行こう」
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