Stage 12 : 洞穴のいたずらプルリル


 やすらぎの洞穴の中は、冷たい空気で満たされていた。
 あの後、ヒロトはミズホと別れた。ミズホはこれからカゲミシティに向かい、ライラックとジム戦をしたのち、イゲタニシティへ向かうという。

 奥へ進んでいくと、お墓詣りをする人々も絶え、ひたすら古い墓標が並ぶ場所に行き着いた。
 そこがポケモンの墓地だからなのか、たまに水がぴちゃんと音を立てると、ヒロトの背筋に寒気が走る。
「ゴーストポケモン、出てこーい……」
 ヒロトが弱弱しい声を出す。全く、どっちがゴーストだ、と、ナゾノクサはため息をついた。
 もう少し進むと、水の流れる音がした。そこへ行ってみると、どうやら川のようで、すぐそばに看板が立っていた。

 命とは 川のように 絶え間なく
 消えては生まれを 繰り返す

 その空間では、水の流れる音だけが、心地よく響いていた。ナゾノクサが音に合わせて、身体をゆらゆら揺らす。

   そのまま川沿いを進んでいると、急に視界を水色のなにかが遮った。
「プルー!」
「っぎゃあっ!」
 それがポケモンとわかっても、ヒロトの心臓ははねあがるようにどくどくとなった。
「この、ポケモン、はっ」
 ヒロトは、未だ落ち着かない心臓を抑え、図鑑を手に取った。
「プル、リル?」
「プルッ」
 プルリルは、ヒロトの反応に満足したのか、彼のもとを離れる。そして、あたりをきょろきょろ見回し、その場に人間がもう一人いることに気付いた。
「プルーッ」
 プルリルはそちらへ向かう。ヒロトも、もう一人の存在に気が付き、プルリルを止めようとする。
「ナゾノクサ、“吸い取る”!」
「ナーゾッ」
 ナゾノクサから、緑の球体が飛び、プルリルに吸い付く。
「プ、プルッ」
 プルリルは、その人のもとから離れ、奥へと消えていった。
「逃げられたか……でも、この人が僕と同じ目にあわなくてよかった。ところでこの人、生きてるよね……?」
 ヒロトはその人のもとに近づく。巻き毛を下のほうで二つに束ねた少女だった。少女は、うーんと唸って、目を開ける。
「あら? 私こんなところで寝ちゃって」
「寝ちゃって、って」
 少女は起き上がり、ヒロトを見る。
「あーそうだ。ここから先はちょっと怖いから、ほかに人が来たら一緒に行こうって思ってたんだ!」
「なんだそれ……」
「ねえ、この奥にはね、宝物があるんだって。それがなにかはわかんないけど……よかったら一緒に行かない?」
 宝物、と聞いて、ヒロトは首をかしげる。ミズホからは聞かなかった言葉だ。
「いいよ。僕も追いかけてるポケモンがいるから! 僕はハツガタウンのヒロト。君は?」
「私は、コガネシティのケツコ!」
「ケツコ……?」
「うん、本当はユイコっていうんだけどね。トレーナーカードの読み仮名登録忘れちゃって……」
 それを聞いて、ヒロトは驚嘆した。カントーやジョウトといった、東の地方の一部では読み仮名登録というものが必要なことは知っていたが、ヒロトが実際に東方出身のトレーナーに会うのはこれが初めてだったのだ。
「でもケツコって呼んでくれていいよ」
「わかった。それじゃ、そろそろ行こう」

 それからも、二人はじめじめした道を進んだ。
「ひあっ! 今、なにか言った……?」
「言ってないよ。さっきは寝てたのに、気にならなかったの?」
「ごめん……」
 ケツコはヒロト以上に物音に敏感で、ことあるごとにヒロトを呼び止めた。
「ううう……そうだ! 出ておいでーヤドキング!」
 ケツコはモンスターボールを手に取り、ポケモンを出す。
 ヤドキングは、出てくるなり、どこも見ずにぼーっと突っ立っている。
「この子と一緒に歩いたら、いろいろ平気かも!」
 ヤドキングは、やぁん、と返事する。確かに、何にも動じそうにない様子だった。
「なるほどな……ってわー!」
 今度はヒロトが驚く番だった。さっきのように、またゴーストタイプのポケモンが急に目の前に姿を現したのだ。
「あっ、プルリルじゃん! ねえ、ヒロトが言ってたのって、この子?」
「え、プルリル……? 違うよ、僕が見たのは水色の……」
 ヒロトが言うと、その桃色のポケモンは頬を思いっきり膨らませ、ヒロトの顔に“水鉄砲”をぶちまけた。
「な、何しやがる!」
「プルー!」
 そうして、さきのプルリルのように、そのポケモンは消えてしまった。
「全く……」
 ヒロトは、顔についた水をタオルで拭きながら言う。
「ねえ、さっき見たのは水色のプルリルなの?」
「そうだよ。ていうか、それがプルリルじゃないの?」
「プルリルはね、オスが水色で、メスが桃色なんだよ。珍しいよね」
「そうだったのか……にしてもあいつら」
 ヒロトは、タオルをきれいにたたんで、叫んだ。
「絶対、ゲットしてやる!」

⇒NEXT 121222