Stage 13 : VSオモトー、新たな戦法


 朝、ヒロトがホウソノジムに向かうと、例の少年たちはすでに観戦席にいた。
「前言ったとおりだよ、勝ちパターンは」
 少年はニヤリと笑う。ヒロトは頷きはせず、ただ視線だけを返した。
 オモトーも準備ができたようだった。まずフィールドの真ん中へ行き、お願いします、と挨拶するのがこのジムのしきたりだった。
 近くで見上げたオモトーの顔つきは、前にジムで見たものとは違っていた。しかし、それだけで慄くヒロトでもない。プルリルたちとブルンゲルの一件で、変化があったのは老人も若者も同じだ。
 ヒロトは、はじめに出すポケモンはもう決めていた。エスパータイプのポケモンの弱点を突けるのはプルリルしかおらず、またクサイハナとワカシャモはエスパーに弱い。
「スバメ、トップバッターよろしくな!」
 スバメが元気に出てくると、少年たちは虚を突かれた。スバメのような、素早くて物理技を得意とするポケモンをこんなに早く出してもいいのかと。
 しかし、ヒロトは別に彼らの言葉にわざと反したわけではない。いつもの自分ならこうするだろうという結論に至っただけだ。
「……今日も頼むぞ、スリープ」
 オモトーは、ボールは投げずに手元で開閉スイッチを押し、スリーパーは彼のそばに着地した。
 スリープは、特殊な技に関しては耐えられるが、物理技は苦手だ。確かに少年たちの言うとおり、ここは「速い物理タイプ」で攻めることが得策だろう。
「“翼で撃つ”!」
 スバメは、すぐさま飛び立つ。しかし、得意の左翼での攻撃をスリーパーにしたその時、硬直してしまった。
「え、スバメ?」
「“金縛り”」
 今スリープが放った技をオモトーが言う。この技の効果により、しばらくの間、スバメは“翼で撃つ”が使えなくなる。
 ヒロトは考える。“電光石火”では少し弱い。それなら、ここは。
「……戻れ」
 一度引くしかない。引っ込めれば、“金縛り”の効果も切れる。
「次は……ワカシャモだ!」
 ワカシャモは、相手が苦手なタイプであるにもかかわらず、元気に飛び出してきた。
 いきなり攻撃をすれば、また金縛りにされるかもしれない。ヒロトはそう考え、まずは補助技を指示した。
「“きあいだめ”」
 ワカシャモが唸る。格闘タイプの技があまり効かないとなると、唯一の炎タイプ技である“火の粉”を急所に当てて、一撃を狙うしかない。
「ふむ。ではこちらは、“毒ガス”といくかな」
「げっ」
 スリープはどかどかとワカシャモに近づき、ガスをばらまく。ワカシャモは眉間にしわをよせ、回る毒に耐える。
「やばいな」
 これで居座れる時間もなくなった。だが、格闘タイプのワカシャモにもともとそんな時間はない。それならば、さっさと攻撃に移ってしまうべきだ。
 毒で苦しむワカシャモに心を痛めながらも、ヒロトは指示を出す。
「“火の粉”だ、ワカシャモ!」
「“サイケこうせん”」
 ワカシャモの技を、スリープもまた特殊技で受け止める。
「気合い……見せてやれ!」
「シャモーッ!」
 ワカシャモの炎が大きくなる。そして、それはエスパータイプの技を打ち破り、スリープを襲った。
 スバメのダメージもあり、スリープは前のめりに倒れた。
「……! スリープ戦闘不能。ワカシャモの勝ち」
「やった」
 ヒロトは息を吐くように言った。ワカシャモの状態を見れば、喜んでもいられない。次出てくるのはどんなポケモンだ、と、ヒロトはオモトーの持つボールを見た。
「いくぞ、ユンゲラー」
 そのポケモンが降り立つと、しゅう、と息を吐いて気合いを入れた。
 ユンゲラーを見て、ヒロトは顎に手を当てて考える。見た目は頼りなさそうで、実際防御は低いが、その代わり特殊攻撃力と素早さに長けたポケモンである、という程度の知識は持っていた。
 だから、今のワカシャモだと立ち回りにくい。毒のダメージも蓄積してきた頃だ、決意が迫られ、ヒロトも焦る。
 そんな気持ちを抑えるように、ヒロトはひとつ深呼吸した。
「ワカシャモ、走れ」
「“サイケこうせん”」
 オモトーが指示したのは、さきほどスリープが放ったのと同じ技だった。やっぱりな、技のレパートリーないからな、と観戦している少年たちが笑った。
 しかし、ヒロトのワカシャモにとっては窮地だ。走るワカシャモを見て、少年たちは目を真ん丸くする。
「今だ、“砂かけ”!」
「シャアッ……!」
 光線に呑まれながら、最後の力を振り絞って、ワカシャモは地面を蹴った。ワカシャモはそのまま倒れるが、ユンゲラーの顔には砂がかかり、ぶんぶん首を振る。
「ワカシャモ、戦闘不能。ユンゲラーの勝ち」
 言われて、ヒロトはワカシャモのほうへ向かう。オモトーも、少年たちも、呆然とその様子を見ていた。
「ワカシャモ、……ごめんな」
 これでユンゲラーの命中率を下げられる。一度でも技を外せば、防御の低いユンゲラーを他のポケモンが倒せるかもしれない。
 それを見越して指示した作戦だったが、ヒロトの心はひたすら痛んだ。ゆっくりとボールをかざして、ワカシャモをボールに戻し、挑戦者サイドに戻った。

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