Stage 13 : VSオモトー、新たな戦法


 残るポケモンは互いに三体。毒タイプのクサイハナを出せば、何もできずにやられてしまうだろう。かといってスバメやプルリルでも、ユンゲラーを倒せるか。
 否、とヒロトは思い直す。ワカシャモの気合を無下にすることはできない。絶対に勝つ、と決意して、一つのボールを取った。
「出番だ、プルリル!」
「リィッ」
 プルリルは場にふわふわと漂う。特殊防御の高いプルリルであれば、ユンゲラーの攻撃が当たっても耐えられるかもしれない、と判断したのだ。
「“サイケ光線”」
「“自己再生”!」
 光線の軌道を瞬時に判断し、ヒロトは指示を出す。技は当たったが、プルリルはすぐさま身体の傷を癒した。
 相手の技が当たるか当たらないか、それに合わせて素早く指示を出さなければならない。ヒロトにとっては、身を削るような戦法だった。それでも、捕まえたばかりのプルリルと、相手の鍛えられたユンゲラーのレベル差を埋めるにはこれしかない。
「PPが切れることは忘れておらんか」
「忘れてません、けど」
 数ターンが過ぎた。しかし、ユンゲラーは技を外さない。ほんの少し砂が気になって軌道がずれることもあるが、全く外れることはない。元々“サイケ光線”は命中率には優れている。それであって、追加効果によってポケモンが“混乱”してしまう時もあることをヒロトは知っていた。
 思考がそこまで廻った時、待てよ、とヒロトはプルリルの後姿を見る。そんな技ならプルリルも持っている。捕まえてから一度も共にバトルをしていないが、覚えている技のチェックは済ませていた。
「“サイケ光線”」
「“水の波動”!」
 戦法チェンジだ。光線の軌道が微妙に外れることを見てとり、指示を出す。
 プルリルは一発耐えた。そして、初めての攻撃技を繰り出す。
「ばーいがーえしっ!」
 ヒロトは元気に言うが、観客の少年たちには意味がわからなかった。何をもって倍返しなのか、こんな特殊技でユンゲラーは倒せない、と。
 しかし、水を浴びた後のユンゲラーを見て、ことの顛末を理解する。ユンゲラーの目は、焦点が合っていない。
「混乱状態!」
 客席からそんな声が飛んでくる。
「サイケ光線、水の波動……この二つの技は、ともに相手が混乱する時がある、という効果があることを思い出しました。効果絶大でよかったです」
 そういう意味での「倍返し」だったのか、とオモトーは目を見開く。
「今のうちに、“吸い取る”!」
「プールリーッ!」
 ユンゲラーは、特殊防御はそこまで低くはないとはいえ、元から体力がない。その技に、あっけなく倒れてしまった。
「ユンゲラー、戦闘不能。プルリルの勝ち!」
 面白くなってきたな、と少年たちは唾を呑み込む。
 しかし、ヒロトの表情は硬いままだ。
「できれば、もう一匹倒したい……」
 その呟きはプルリルにだけ聞こえていたようで、プルリルは表情を引き締めた。オモトーは表情を崩さず、ユンゲラーをボールに戻す。
「ブーピッグ、頼むぞ」
 ブーピッグは、どしん、と降り立った。ヒロトが知らないポケモンだったが、このポケモンも「速い物理技」で倒せるのだろうか、と思いめぐらす。
「“サイケ光線”」
 さきと同じ技が飛んでくる。客席からどっと笑い声が起こるが、ヒロトも同じ戦法で迎え撃った。
「“水の波動”」
 これで相手をまた混乱させれば、と思ったが、水を浴びた後のブーピッグは、してやったり、と笑っていた。
「……効いてない」
「特性、だ」
 オモトーはそれだけ言った。
「そうか、マイペース」
「あのサイケ光線は罠だったのか」
 観客の少年たちが話す。ブーピッグの特性“マイペース”は、自分が混乱状態にならないというものだ。混乱戦法が成功したプルリルに同じ技をぶつけ、“自己再生”を使うという発想を欠かせるための、冷静なオモトーならではの戦法だった。
「……“エナジーボール”」
 オモトーが指示を出す。苦手な草技をくらって、プルリルはなすすべもなく倒れた。
「プルリル、戦闘不能。ブーピッグの勝ち」
「……」
 あたりがしんと静まった。なにも“サイケ光線”を撃たず、はじめから“エナジーボール”で攻めていれば、プルリルは一発で倒れたはずだ。それをしなかったのは、ヒロトのリズムを、ポケモンとのフットワークを崩すためだ。
「このバトル……最後まで観る価値は大いにあるぞ」
 リーダー格の少年の一言に、周りにいた少年たちはスタジアムを凝視することで返した。

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