Stage 13 : VSオモトー、新たな戦法


「……クサイハナ」
 ヒロトは進化したばかりのポケモンを出した。相性は悪いし、“水の波動”のダメージを見る限りだと、ブーピッグはユンゲラーよりも打たれ強い。
 倒せない、と、ヒロトは思った。“メガドレイン”で踏ん張っても、“サイケ光線”を一度くらってしまえば、もう成すすべがない。
「“サイケ光線”」
「“痺れ粉”」
 間髪入れずに、技を指示する。しかし、クサイハナでは素早さで勝てない。結局何もできぬまま、クサイハナは倒れてしまった。
「クサイハナ!」
「クサイハナ、戦闘不能。ブーピッグの勝ち」
「そんな……」
 進化してはじめてのバトルなのに、何もできずに倒れてしまった。倒してしまった。ヒロトもそうだが、クサイハナはより悔しいだろう。それでも、なんと声をかけて良いのかわからず、ヒロトは無言でクサイハナをボールに戻した。
「もうお前しかいない」
 素早く、かつ物理技を得意とするポケモン。それが、一番はじめにも出したスバメであった。
「“かげぶんしん”!」
 スバメは、クサイハナの倍ぐらい動けるブーピッグよりも速い。残り一匹の手持ちポケモンを倒されないようにするためには、攻撃を避けることも考えなければならなかった。
「“自己暗示”」
 しかし、ブーピッグのその技により、互いの回避率は同じになった。“自己暗示”は、相手にかかった補助効果をコピーする技だ。
 分身したブーピッグがフィールドに点在する。
「どうすれば……そうか、スバメならできる! “翼で撃つ”」
 分身を自ら解いてしまうことになるが、スバメは空中を旋回する。その間にも、触れた分身はどんどん消えていった。
「そいつだ、いけ!」
 スバメの攻撃は確かな手ごたえがあった。ブーピッグの本体だったのだ。
「旋回を利用して分身を消すとは、なかなか……」
「“電光石火”!」
 そして、そこからの先制技だ。これにはブーピッグも耐えられない。
「ブーピッグ、戦闘不能。スバメの勝ち!」
「よし」
「ちゅんっ!」
 勢いを取り戻しつつあるヒロトに、スバメも笑いかける。
「……最後のポケモンは」
「ああ、あいつだな」
 これで挑戦者、ジムリーダーともにポケモンは一匹。オモトーは最後のボールを手に取った。
「エルレイド、ゆけっ!」
 呼ばれたエルレイドは、しゅた、と降り立つ。
「あれ、サーナイトは……」
 ヒロトが言うと、あいつはエルレイドの子供だ、とオモトーが返した。
「絶対強いじゃんかぁ……」
 洞穴で見たサーナイトの“サイコキネシス”。とっさの判断、威力、全て今でも脳裏に描くことができる。そのサーナイトの、親、とは。
 と、とりあえず“かげぶんしん”」
「“連続斬り”」
 その技はスバメにはいまひとつ効かないが、分身を消すには十分であった。しかし、本体に当たった時、スバメはふっとばされてしまう。
「物理技が強いのか……」
「刀のような腕を使った技が得意だ」
 スバメも物理技が得意だから、接近戦を強いられる。しかし、技の威力は確実にエルレイドが上回っている。素早さはスバメの方が上らしいが……
 “連続斬り”で飛ばされたスバメが地に降りた時、ヒロトの視界にはもう一つ、見えるものがあった。
(あれを使えば)
 スバメが地面を蹴る。ヒロトはとっさに指示した。
「スバメ、一旦下がれ!」
「ちゅん」
 スバメはすぐにヒロトの近くまで来た。
「“辻斬り”」
 指示を受け、エルレイドは走る。もともと、通行人を刀で斬りつけるさまに似ていたから、と名付けられた技だ。だから腕はぎりぎりまで振り上げない。スバメも動かない。
 エルレイドが腕を振り上げた時、果たしてエルレイドは動けなくなってしまった。
「かかった!」
 ヒロトが言う。エルレイドの足下には、クサイハナがばら撒いた“痺れ粉”があった。
「スバメが飛べるポケモンでよかった。飛べなかったら、うっかりこっちが踏んでたかも」
「なるほどな……」
 “痺れ粉”は相手の素早さを下げる効果もあるが、ヒロトが狙っていたのは身体の痺れだ。
「よし、今! “翼で撃つ”!」
 充分勢いをつけ、スバメはエルレイドを襲う。エルレイドはそのまま吹き飛ばされ、起き上がることはなかった。
「エルレイド、戦闘不能。スバメの勝ち!」
「えっ」
「よって勝者、挑戦者のヒロト!」
「えええーっ!」
 すげー、と観客席から声が上がるが、ヒロトは自分を指したまま固まる。
「……エルレイドは、エスパーに加え格闘タイプも持っている」
 だから、飛行技の“翼で撃つ”で倒れたのだと。オモトーは倒れたエルレイドに、手を差し伸べる。エルレイドは、残りの力でオモトーの手を取った。
「よく戦ってくれた」
「シュウ……」
「戻ってくれ」

 バッジを受け取り、ヒロトは早速バッジケースに入れた。そして、観客席を仰ぎ見る。
「結局、スバメの戦法で勝っちゃった。もっと色々試してみたかったなぁ」
「何を言うておる。四匹で勝ち取った勝利だ。のう?」
 オモトーが、隣にいたエルレイドの娘、サーナイトに言う。サーナイトは、サナ、と頷いた。
 ヒロトが顔を上げると、少年たちがオモトーに近づいていた。まずサーナイトが振り向き、それからオモトーが振り向く。
「ジムリーダー、……ごめんなさい」
 一人が謝ると、他の少年たちも頭を下げる。
「おや、謝られることなんか」
「いえ、特性を利用した罠、それから自己暗示。僕たちもまだまだ勉強が足りないと思いました。どちらの戦法も読めなくて、とても良いバトルだったと思います」
「勉強になりました」
 不器用そうに言う少年たちに、おやおや、とオモトーが戸惑う。隣でサーナイトが微笑んだ。
「さて、次はまた、サーナイトの出番か。父さんに負けてられんぞ」
「サナッ」
「バトルは日々勉強だ。いつまでも負けていられん!」
 互いに、また観客にも得るものがあった戦いを終え、和やかな空気の中、ヒロトはジムを去った。

 ポケモンを回復させ、バッジケースを開く。横からワカシャモが覗きこんでいた。
右上にラッシュバッジ、右にシンゼスバッジ、そして、下にさっき手に入れたゴーディバッジ。サクハ地方のバッジはパズルのピースのようになっている。
「次は右下か、左下か……」
 右下はカゲミジムのバッジ、左下はイゲタニジムのバッジだ。一度カゲミに戻れば、四つのバッジがくっつくことになる。
「でも」
 ヒロトはケースをしまう。
「新しい町も見たいし、まずイゲタニシティに向かおう!」
「シャモ!」
 決意して、東を見る。過酷な道が続く。しかし、ヒロトの好奇心はとどまるところがなかった。

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